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仁志ースピンオフ愛理 A


(主人公の妻として愛理さんが登場)


パチンコ屋の中(夕)
   
小松仁志(35)はタバコを吸いながらパチンコを打っている。仁志はジャ―ジ姿でラフな格好で遊んでいる。

仁志「よし、リーチだ! きてくれよ。頼むよ本当に。これで出なかったら今月の住宅代がでない」
   
仁志はパチンコ台を見つめる。パチンコは派手に照明と音楽がながれる。

仁志「こい、こい。 こい!」
   
パチンコは776を示す。

仁志「あ〜〜! くそ!」

仁志は立ち上がり小さく台を叩いて、外に出る。

仁志「くそ! すっからかんだ!」
  
仁志は財布を覗く。札がないことに腹を立てる。

仁志「タバコ代も残ってないじゃないか」

仁志は近くの消費者金融の看板を見て向かう。

仁志「10万あれば今月は乗り切れる」
   
仁志は店のATMでお金を借りる。

仁志「来週、この分を取り戻すぞ」


仁志の家(夕)
   
愛理(36)が納豆をかきませている。仁志が玄関を開けて居間に行く。

仁志「なんだまた納豆かよ」

愛理「あんたね、またパチンコ? 少しは家事の手伝いとかしてよ。あんたの稼ぎ
   が悪いからこうなってるんでしょ? 私だって働いてるのよ。パチンコをもうやめて」

仁志「遊んでいるんじゃない、お金得るためにやってるんだ」

愛理「それが遊んでいるいってるの」

仁志「パチンコ事業部」

愛理「ばっかじゃないの?」

仁志「なんだよ。本当に稼いでいる奴だっているんだぞ」

愛理「本当に稼ぐ人は、堅実に働くわ」

仁志「今にみてろ、ざっくざくだ」

愛理「サラ金だけはやめてよね」

仁志「や、やってないよ」

愛理「ならいいけど。これから金かかるんだからね」

仁志「ふん、毎晩、ホテルでディナーにしてやるよ」
   
仁志は自分の部屋に閉じこもる。

事務所(朝)
   

時計は8時57分を示している。事務  
所は1席を除いてみなそろっている東智久(49)がコーヒー飲む。

東「仁志の奴、休みか? まああいつはやる気ないけどな」

スタッフA「やる気のなさは職場一ですね」
   
仁志がだまって入ってくる。

東「挨拶ぐらいしろよ。アホ」

仁志「あ、おはようございます」

東「三分前で急いでもいない。仕事する気あるのか?」

仁志「あ、ありますよ」
   
仁志は自分の席に座る。谷口実(59)が事務所に入る。

谷口「仁志。ちょっと社長室にきて」

仁志「え? まだ時間前なのに?」

谷口「ごちゃごちゃ言わず、早く来い」
   
仁志は立ち上がり、社長室へ向かう。

東「お前、ペンもノートも持っていかないのか?」

仁志「あ、忘れてました」
   
仁志は机に戻りペンとノートをとり、社長室に行く。

谷口「お前はもっと早くこい」

仁志「はい」

谷口「それで、南大沢はどうなってる、確か今日で一区切りだな。次のコースは何人?
    何人残る? 全員残るんだよな」

仁志「いえ、7人中5人が今日で終わりです」

谷口「なんだと?5人辞めて、次のコースにいくのがたった二人だと? ちゃんと丁寧
    に教えているんだろうな?」

仁志「もちろんです。でも時間がないとかで」

谷口「時間ない? 60代・70代がか? それは表向きでお前の授業がつまんないんじゃないか?」

仁志「そんなことはないと思います。広告をして新しい人を」

谷口「広告ってな、無料じゃないんだぞ。わかっているだろ。 これからは高齢者がど
    んどん増える。客を逃すな」

仁志「(小声)教えても覚えないんだよなあ」

谷口「何ごちゃごちゃいってる? 若い人はちゃっちゃと操作できても、高齢者はタブレットをじっくり覚えるんだ。買っただけ
    の高齢者がどれだけいると思う? 使いこなしている奴がどれだけいると思う。お前がその助けをちゃんとしてるか?」

仁志「やってるつもりですが」

谷口「やっていたら辞めないだろう。高齢者はお金持ってる人はもってんの。そこからきちんとふんだくれ。いいな」

仁志「わかりました」

谷口「それから、移動中は遊びの時間じゃないからな。授業のネタを考えて教科書作れ」

仁志「・・はい」

谷口「じゃあ、もういけ。ちゃんと結果出すように」

仁志「はい」
   
仁志は社長室を出る。谷口が事務所に顔を出す。

谷口「皆さん、会議はじめるからよろしく。仁志、さぼるんじゃないぞ」
   
事務所の人は会議室へいく。仁志は、ネットサーフィンをする。
時刻が11時を指している。仁志は立ち上がり、ホワイトボードの自分の欄
に南大沢帰社17:45と書く。そして無言で部屋を出る。

東「いってきますとかないのかよ」 
 
電車の中(昼)
   仁志はスマホでテレビ画面を見てニタニタしている。

南大沢会議室(昼)
   タブレット受講生7人が会議室の椅子に座りタブレットをいじっている。仁志はその近くで立ってみている。

仁志「では最後に天気の授業をします。スマッシュ天気というものです」

受講生A「スマッシュ? テニスみたいだな」
   
会場は静かである。

仁志「スマッシュのように早く天気が表示されます」

受講生B「プレイストアにあるんだな?」

仁志「最後なので手に入れる手順は説明しません。各自やってみてください」
   
受講生はタブレットを触る。

受講生C「開いたけど場所が港区よ」

仁志「あ、待ってください。皆そろうまで」

受講生C「ああ、ここ押せばいいのね」

仁志「(小声)ち、勝手に進めやがって」

受講生C「え、何?」

仁志「いや。なんでもないです」
   
菅野マツ(78)がまごついている。仁志は気づかないふりをしている。

マツ「ええーと、どこ押すの? 教えてくださらない?」

仁志「教科書見てみましょう」

受講生C「これ住所入れればいいの?」

仁志「あ、インストールして画面が出た方は地域選択を推して郵便番号を押してください」

マツ「それは何か教えてくださらない?」

仁志「菅野さん。菅野さん、もうアプリの手の入れ方はもう覚えましょうね。もう10
    回はやっているのですから。すべてのアプリを押して」

マツ「あ、あぷ」

仁志「ここです。ここ」

マツ「ここ押して、で?」

受講生C「あらー明日は雪だって。困ったわ」

受講生D「でも積もっても5cmぐらいだろう。夕方は晴れマークだ」

仁志「どこを押しますか。プレイストアです」

受講生E「いやだ、日曜日は雨じゃない。旅行いくのに困るわ」

受講生D「どこいくんだい?」

受講生E「台場よ」

マツ「プレイストアって何?」

仁志「ああ、忘れたんですね、じゃいいです。ここ押して、スマッシュ天気と話してください」

受講生E「台場、雨か」

仁志「あ、台場になってます? いやここの住所になっているので、地域変更かけてください」

受講生E「ああ、そうなのね」

マツ「スマ、スマ、何?」

仁志「スマッシュ天気」

マツ「スマッシュ天気」

仁志「ああ、マイク押さないとだめですよ」
   
仁志はマツのタブレットのマイクマークを押す。

仁志「どうぞ」

マツ「・・・・スマッシュてん・・あれ」

仁志「マイク押してから3秒以内にお話ください」

マツは機械に近づける。

マツ「スマッシュ天気お願いします」

仁志「だから、マイクマークを押すのと、お願いしてもダメですよ。単語」
   
仁志は溜息をする。

受講生C「これ便利ねえ」
   
仁志は受講者Fがまごついているのに気づくが、溜息ついてそのままにする。

仁志「他わからない方いますか?」

受講生F「・・・・」

マツ「・・スマッシュ天気」

仁志「まだだめですね。時間ないんでこちらでやりますよ」
   
仁志はマツの端末を持つ。

仁志「スマッシュ天気。・・そしたらこの画面がでますね」

マツ「そしたらどうするの?」

仁志「(小声)ダメだ、こりゃ」

受講生D「日曜晴れでよかったじゃねえか」

受講生E「曇りよ」

受講生D「そうかあ。まあいいんじゃないの」

受講生A「明日は雪だからおしっこもれるな」
   
会場静まり返る。

仁志「(小声)まとまりねえクラス」

受講者F「時間なんで帰ります」
   
受講者Fは身支度をして会議室を出る。ひとしはスマホ見る。15時30分である。

仁志「さあそろそろ時間です」

マツ「あたしはまだなんだけどねえ」
   
仁志がイヤな顔する。

仁志「ここ押して、インストールして、で。郵便番号入れると。はい、明日、雪ですね」

マツ「はあ」

仁志「さて、皆さん、時間になりました。8回の生活講座はいかがでしたか」

受講生C「まあまあ」

受講生D「次はどんな講座」

仁志「作業講座。作業といっても仕事じゃなく写真をプリントしたり、クラウドにのっけたり。やってみたい方」

受講生C「どうする?」

受講生D「俺はいいか」

受講生C「じゃ私もいいや」

仁志「え? 受けないんですか。2名が0か。まあいいや。ではありがとうございました」

一同「ありがとうございました」
   
受講生は支度をして次々部屋を出ていく。マツだけが残っている。 

マツ「さっきのとこ、ちょっと教えてくださらない?」

仁志「もう時間なんですけど」

マツ「時間ないのかい? じゃあお金払うから特別授業やってよ」

仁志「いやいやそんなサービスやってないし」

マツ「あたし、頭の回転悪いから、覚えるのに時間がかかるんだよ。これでいい?」
  
マツは5万、仁志に渡す。

仁志「いやいや、こんなのばれたら会社首になるよ。5万で人生おじゃんにできない」

マツ「足らないのかい? じゃあ20万でどう? これで時々ここにきたときに教えてくださらない?」

仁志「20万。うーん。サラ金10万返せる」

マツ「はい?」

仁志「いやいや、20万、時々でいいのならただ、会社にばれたら首なので内密に」

マツ「してくださる? いや嬉しいねえ」

仁志「ここの会場は17:00までなので1時間くらいなら大丈夫です。授業がおした
    といえばなんとかなるだろう」

マツ「あたし、喉がかわいたのよねえ」

仁志「じゃ、場所、移りましょうか。コーヒ―屋とかでいいですか? あ、でますので。
   鍵しめます」
   
仁志は会議室の鍵と小さいボードもって、タブレットを鞄にいれる。

仁志「でましょう」
   
仁志とマツは部屋をでる。通路を歩く。

仁志「ここにくるのは月曜なんで、2週間に一回で月曜でいいですか?」

マツ「ああ、あとで話すよ」
   
二人はエレベータに乗る。

マツ「あたしは足が悪いのよね、まあ他にもこの年になるとね、いろいろあってねえ」

仁志「まあこういうことに意欲があるのはいいことですよ」
   
二人はエレベータを降りる。

仁志「ちょっと待っていてください。鍵を返してきます」
   
仁志は貸し会議室事務所に入り無言で鍵を返す。

仁志「お待たせしました。いきますか」
   
二人は会館を出る。

仁志「駅前のコーヒー屋でいいですか?」

マツ「あたしがやがやしたとこ嫌いでねえ」

仁志「え? ではどこで?」

マツ「あたしの家にきてくれないかねえ」

仁志「それでもいいですが、16:30までしか時間ありませんよ。教える時間あるか
    わからないですよ」

マツ「家はどこだい?」

仁志「家は桜が丘で、一度、調布の事務所に17:45には戻らないと」

マツ「もっと気軽に構えたらどうだい? 大丈夫だと思うけどね」

仁志「ぎりで17時で。この付近にお住まいでしたね」

マツ「ああ、あそこにタクシーがいるわ。とめてくださる?」

仁志「20万の為なら」

マツ「何?」

仁志「いや、独り言です」
   
仁志は走ってタクシーを止める。

マツ「じゃ、先乗り込んで」

仁志「じゃ、遠慮なく」
   
仁志はタクシーに乗り込む。

マツ「大丈夫かい? じゃ乗るよ」
   
マツもタクシーに乗り込む。

マツ「若葉台駅近くにいってもらえる? あとでまた云う」

運転手「了解いたしました」
   
運転手は車を動かす。

マツ「あなたこの仕事大変でしょ? いくらもらってるのさ?」

仁志「月に18万ほど」

マツ「あら、それは考えたほうがいいねえ」

仁志「月に50万はもらってみたいですね」

マツ「ねえ、ねえ、運転手さん。行先、佃に変えてもらえる?」

運転手「佃? 了解しました」

仁志「佃? 佃ってどこですか?」

マツ「いいから、いいから。悪いようにはしないよ。月50万なんて簡単さ」

仁志「簡単なら方法教えてください」

マツ「いいから、いいから。佃に行くよ」

仁志「お家は若葉台の方じゃないんですか?」

マツ「若葉台は息子に買ってあげた、マンションでね。隣の号室に私の家はあるが、佃
   にもマンションあるのさ。そこいくよ」

仁志「お金もちなんですね。びっくりしました。(小声)うまくすりゃ、いっぱい金もらえる」

マツ「何か言った? 最近耳も遠くてね。おおきくお願いね」

仁志「・・いや、その佃というところはどこらへんですか」

マツ「いいから、いいから。あんた月給18万だろう? 少し考えないとね。あんた確か37だろう」

仁志「35です」

マツ「どっちでもいい。私に任せなさい」

仁志「暮らしは変えたい」

マツ「簡単さ。そのタブレット講師よりかね」
   
マツは折り畳み携帯を取り出しかける。

マツ「あ、茂君? 今日悪いけど、佃のマンション5時にきてくださらない? いい?宜しく」
   
マツは電話を切る。


タクシーの中(夕方)
あたりは薄暗くなってきている。仁志はスマートフォンで時計を見ている。

仁志「もう16時18分ですよ。もう教える時間があまりないですよ」

マツ「まあそんなに心配してどうするんだい。運転手さん、この橋渡ったところで、リバ
   ―シティ21の方向へいってくださる? リンコスの前でとめてくださる?」

運転手「了解しました。時間気にしている方もう着きますよ」

仁志「運転手さん、佃ってどこらへんですか」

運転手「もんじゃの月島駅の近くですよ」

仁志「調布までどのくらいかかります?」

運転手「調布? 時間? お金?」

マツ「ああ、いいの。いいの。運転手さん。仁志さん、今日、帰ったら仕事あるんかい」

仁志「いや、荷物おいて、帰るだけですけど」

マツ「じゃあ、直接帰りましたにしなさいよ」

仁志「直帰ですか?」

マツ「わからないけど、そうなさい。生徒さんのタブレット買うかどうかで店で対応し
   て遅くなったとか理由をつけてさ」

仁志「あ、なるほど」

マツ「もっとずる賢く生きなさい。正直すぎは損さ」

仁志「その通りだ」

運転手「リンコス前、ここらへんでいいですか」

マツ「ああ、ここでお願いね」
   
運転手は停車する。

マツ「お金ね」
   マツは3万を出す。料金は26760円を指している。

運転手「ありがとうございます」

マツ「仁志君降りて」
   
仁志は降りる。マツも降りようとする。

運転手「あ、おつりは」

マツ「面倒だからいいわ」

運転手「ありがとうございます」
   
タクシーのドアが閉まり、走り出す。

仁志「三千もったいない」

マツ「何がもったいないだよ。いくよ。まず買い物しましょうね。ここスーパーだよ」

仁志「リンコス。あまり知らないな」

マツ「あたしはよく使ってるよ。今日、うちで食べてってよ。ここで買い物するから」

仁志「え? いいんですか?」

マツ「たまにはいい思いしなさい」

仁志「ご馳走様です」
   
二人はリンコスに入る。一人の男性が隠れて見ている。

仁志「ん? メロンが売ってる。六千円?」

マツ「ああ? メロンが欲しいのかい?」

仁志「いや、高いんで」

マツ「気にすることないんだよ。アールスメロンね。あなた籠持ち、いいね?」

仁志「はい。わかりました」

マツ「それからと、刺身は・・と。これにするかねえ。あ、あなたウナギ食べない? 小さいけど」

仁志「このウナギパック2500円」

マツ「いるのかい? いらないのかい?」

仁志「最近、食べた記憶ないんでありがたいです」

マツ「あわびもいいねえ」

仁志「あわびなんて売ってるんだ。ここすごい」

マツ「そうかい?」

仁志「これで1812円」

マツ「金なんて気にしなくていいんだよ。お肉、あなたお肉食べなさい」

仁志「うれしいっす」

マツ「神戸牛、これ150gか。4つぐらいいる? 入れるよ」

仁志「いやさすがにそれは1つ2000円超えてるし」

マツ「金はお前が出すんじゃないから。心配せんでいい」

仁志「はい」

マツ「それと、これ。ああ、あなたワイン好き?」

仁志「ワイン好きですけど、あまり飲んだことない」

マツ「こちらにいらっしゃい」
   
二人はワインセラーへ行く。

マツ「シャトーマルゴーこれ好きなの。あなたいる?」

仁志「え? 17万4千円? 一カ月分の給料だ」

マツ「ごちゃごちゃいってないで、これでいいね?」

仁志「いいんですか? 私、ホストとかではないですよ」

マツ「そんなの関係ないんだよ。あとなんか欲しいの云って」

仁志「い、いやもう、参りました」

マツ「普通なんだけどねえ。あ、これ店員さん呼ばないといけないんだよ。呼んできて」

仁志「あ、はい」

マツ「籠はここに置いといていいから」
   
仁志は籠を置いてレジの前に行く。

仁志「あのーワインを買うんですけど」

店員「はい、どちらですか?」
   
仁志はマツの方を指す。

仁志「あの人のいる所」

店員「わかりました」
   
店員と仁志はマツに近づく。

マツ「ああ、店員さん、シャトーマルゴーほしいんだけどね」
   
店員は鍵を開けてワインを取り出す。

店員「こちらで宜しいですか?」

マツ「仁志。なんかあるかい?」

仁志「いや、私はもう」

マツ「じゃあそれでお願いするよ」
   

店員が籠をもってレジに移動する。2人はついていく。れじを打つ。

店員「・・・・でシャトーマルゴー。以上で23万6787円です」
   
マツは財布を取り出す。

マツ「仁志、万札、24枚数えて出してもらえる?」
   
仁志はマツの財布をもらい、札を数える。30万数える。

仁志「30万あったんで、24は」
   
仁志は店員にお金渡す。

仁志「これでお願いします」

店員「はい。では数えますね」
   
店員が数える。

定員「では確かに24万。・・では3213円のお返しです」
   
店員は仁志にお金を渡す。

マツ「仁志。おつりはあんたにやる。めんどくさくてねえ」

仁志「ありがとうございます」

マツ「そのかわり荷持もってくださる?」

仁志「お安い御用で」

店員「ありがとうございました」

マツ「ついてきて」
   
2人はお店を出る。一人の男が睨みながらその光景を見る。


高層マンションの入り口(夕)
   マツはカードをあてる。ドアが開く。

仁志「そこらへんのホテルより綺麗だ」

マツ「そうかねえ。普通なんだけどねえ」
   
仁志はエレベータのボタンを押す。エレベータ―のドアが開く。2人は乗りこむ。

マツ「仁志、最上階押してくれない?」

仁志「はい」
   
エレベータが閉まり動く。

仁志「高級食材ばかりですけど、料理とか作るんですか?」

マツ「そんなめんどくさいことしないよ」

仁志「あ、でもこれ調理するんですよね?」

マツ「ああ? ああ。茂にやってもらう」

仁志「誰ですか?」

マツ「今夜、調理してくれる人だよ。呼んだ」

仁志「調理人がいるのですか?」

マツ「茂は調理がうまいのよ」

仁志「なんか申し訳ない」

マツ「気にしない。あなたはこれから変わるんだからさ」

仁志「そうですね。変わらなきゃ」

マツ「さあ、ついた。4時40分、茂は5時にくるから」
   
二人は廊下を歩く。

仁志「その茂さんは、息子さんかなんかで?」

マツ「あんたと同じで料理を創ってくれる人として雇ってるのさ」

仁志「そうなんですか。ますます悪いなあ」

マツ「気にすることないんだよ」
   
マツはカードかざしてドア開ける。

マツ「狭いけど、入って」

仁志「お邪魔します。おおすごい眺め。円形型のガラス張りだ」

マツ「ここは月60万する借家だよ」

仁志「月60万ですか? 別世界だ」

マツ「そうかねえ」
   
ベルが鳴る。マツが受話器を取る。

マツ「茂かな?茂。入って。エレベータ上がって来てちょうだい。もう材料揃えてあるからね」
   
マツは受話器を置く。

マツ「茂が今からくるわ」

仁志「俺もこんな生活してみたい」

マツ「できるさ」

仁志「なんでこんなに資産もってらっしゃるのですか?」

マツ「夫が開業医でねえ。もう死んだんだけどまあその名残さ」

仁志「そうだったんですか」

マツ「あなたもたまにきて、タブレット私に教えてちょうだい」

仁志「はい」

マツ「月に20万でどう?」

仁志「給料が倍か。妻も喜ぶ」

マツ「妻がいるのかい? なおさら稼せがないと。金はあるところにはあるもんだよ。うまく利用しなさい」

仁志「はい」
   
ベルが鳴る。

マツ「茂だわ。ちょっと待ってね。今開けるから」
   
マツが玄関を開ける。茂が入ってくる。

マツ「早かったねえ。じゃあ、ここに材料あるから早速、創ってちょうだい」

茂「わかりました」
   
仁志は茂と目が合う。

マツ「仁志君よ。タブレット教えてもらうの」

仁志「どうも」

茂「・・では調理に取り掛かります」

マツ「宜しくね。仁志はその間、タブレットを教えてちょうだい」

仁志「わかりました」
   
仁志は茂を見てイヤな顔する。時計は17:35分を示している。仁志はマツにタブレットを教えている。

仁志「ここではなくて、ここを押す」

マツ「ああ〜ここかあ。すぐに忘れるねえ」

仁志「大丈夫です。すぐに覚えます」

茂「マツ様、料理が整いました」

マツ「タブレットは今日は終わり。さてと、食べるとするかねえ。茂」
   
マツは財布を取り出し残りを渡す。

マツ「これ3万だよ。ちょっと休んでいいわ。あとで洗い物もお願いね」

茂「了解しました」
   
茂は別の部屋に行く。

仁志「無粋な奴だ」

マツ「何? ああ、 悪いけど仁志」

仁志「はい」

マツ「シャトーマルゴーグラスに注いで」

仁志「わかりました」
   
仁志は冷蔵庫に行き、シャトーマルゴ―を取り出す。

仁志「これ、どうやって栓ぬくんでしたっけ」

マツ「やったことないのかい」

仁志「ワインほどんど買わないので」
   
マツが立つ。

マツ「仕方ないねえ。茂! 悪いけど、ワインの栓抜いてくれないかねえ」
   
茂が無表情で部屋から出てくる。

茂「了解しました」
   
茂が栓をぬく。そして仁志を睨む。

マツ「ああ、悪いねえ。じゃあいっていいよ」

茂「了解しました」
   
茂は別の部屋に入る。

マツ「さ、食べようかねえ。注いで」

仁志「はい」
   
仁志はグラスを2つ用意する。

仁志「おお緊張する。高級ワイン」
   
仁志はワインを入れる。

マツ「では乾杯」

仁志「乾杯」
   
2人はワインを飲む。

仁志「おいしいなあ」

マツ「お肉食べなさい。遠慮はいらないわよ」

仁志「はい」
   

時計は20時を指している。仁志は時計を見る。

仁志「もうそろそろ帰らないと」

マツ「ああ、そうだねえ」
   
マツは財布を取り出し残りの3万を仁志に渡す。

マツ「あたし、足が悪くてねえ。タクシーに乗ってかえってくれる? 3万で足りるだろう?!」

仁志「足ります、足ります。ありがとうございます」

マツ「これからも宜しく頼むよ」

仁志「ありがとうございました」
   
仁志は玄関に向かい、玄関を出る。ひろしはドアをまじまじ見つめる。

仁志「よおし、よおし」
   
ひろしはエレベータに乗る。

仁志「23万をゲット。3万はタクシー? いや、電車で帰ろう。これさえあればサラ
    金返せる。それどころか、金たまるぞ」

 
事務所(朝)
   時計は8時56分を示している。

東「あいつめ」

スタッフA「何やってんですかね」

東「無断直帰だからな」

スタッフA「いつか首になりますよね」
   
仁志がドアを開けて入ってくる。

仁志「おはようございます」

東「あ? 挨拶はいいけど、おはようございますじゃねーよ。にたにた歩いてんじゃね
  えよ。昨日、どうしたんだ?」

仁志「あ、しまった」

東「しまったじゃねーよ。まず、どうした」
   
仁志は少し考えてハッとする。

仁志「お客様がタブレット買うかどうか迷っていて付き合ってました」

東「で、買ったのかよ」

仁志「折り合いがつかなくて」

東「ショップで付き合うならなぜ、その時点で帰りが遅れること言わないんだ? アホ」

仁志「すみません。忘れてました」

東「歳考えろ。新入社員じゃねえ。おまえ35のおっさんだろ。ほうれんそう。報告、
 連絡、相談、こんなこと言わせる気か?」

仁志「すみません」

東「少しの間待ってたんだからな。今度はやるなよ。社長にも謝ってこい」

仁志「すみません」
   
仁志は社長室へ行きノックする。

谷口「誰だ」

仁志「仁志です。昨日はすみません」

谷口「入れ。朝、あまり時間ないんだ」
   
仁志は中に入る。

谷口「あまり話すことはないが、無断直帰はしないように。タブレットは私物じゃない
    んだ。一度は事務所に戻れ」

仁志「すみませんでした」

谷口「今度やったら早退扱いするから気をつけろ」

仁志「すみませんでした」

谷口「仕事に戻れ」
   
仁志は席に着く。

仁志「(小声)忘れてた。
   
電話がなる。仁志がとる。

仁志「タブレット勉強会タブれ、担当仁志です」

マツ「ああ、仁志。昨日はありがとね」

仁志「いつもお世話になっております」

マツ「早速で悪いんだけどね、親戚がタブレットくれてねえ。やり方が全然わからない
   んだよ。お昼、見てくれないかねえ」

仁志「今日は事務所にいる日なので申し訳ないですが」

マツ「今日だけだからさ、頼むよ」
   
仁志は受話器を両手に持ち抱え込む。

仁志「(小声)講習日の後っていったじゃないですか」

マツ「今日だけ。今日だけだからさ」

仁志「そういったサービスはしてません」

マツ「あんた生活変えたいんだろ? このままじゃ変わらないと思うがねえ」

仁志「・・・そうですがでも」

マツ「今日断ったら、もう機会ないと思うがねえ」

仁志「(小声)あの話はなくなる」ってことですか?」

マツ「そうだと思うけどねえ」

仁志「ではどうしたらいいですか?」

マツ「昨日と同じ、佃で12時に来てくださらない?」
   
仁志は壁掛けの時計を見る。9時2分を示している。

仁志「覚えていないのですが」

マツ「月島の駅にいってくださる? そこからタクシー拾ってあげる」

仁志「・・・わかりました」
   
仁志は受話器を置く。そして頭に手をやり目をしばらくつむる。しばらくし
て立ち上がり、トイレに向かう。トイレの個室に入り鍵をする。

仁志「・・変わるんだ。嫁を病気にしてしまおう」
   
仁志はトイレの鍵を明け、トイレを出て、社長室に向かう。ノックをする。

谷口「はい」

仁志「社長すみません」

谷口「さっきの話ならもういいぞ。10分から会議だ」

仁志「すみません、その話ではなくて」

谷口「どうした?」

仁志「嫁が40度の熱を出しまして」

谷口「そういうことは早めに云え。で?」

仁志「昨日のこともありまして、来ましたが、心配で」

谷口「そうか。何故、昨日のうちに言わない今日はもう帰っていいぞ。インフルエンザ
    じゃないだろうな?」

仁志「多分、それはないかと」

谷口「今日、ちゃんと面倒見てあげて、明日授業はちゃんと出ろ。いいな?」

仁志「わかりました」

谷口「ボードに休みのマークつけとけ」

仁志「わかりました。ありがとうございます」
   
仁志は自分の席へ戻り、ホワイトボードに休みのマークを貼る。

東「なんだ? 休みか?」

仁志「嫁が高熱だしまして」

東「なんだ、そうか」

仁志「今日はすみませんが、失礼します。
   
仁志は事務所を出る。

仁志「うまくいったぞ」
 

月島駅改札前(昼)
仁志は改札前付近の柱に寄りかかり、スマートフォンをいじっている。
ゆっくりとマツが近づく。時間は12時10分を指している。

仁志「遅いじゃないですか」

マツ「そんなことはどうでもいいじゃないか急いでないだろ」

仁志「今日だけですよ。嫁を高熱にして、休み無理してもらったんですから」

マツ「いきりたつんじゃないよ。まずはランチにしようじゃないか。おいで。おいしい
   ものを食べようかねえ」

仁志「ランチご馳走してくれるんですか?」

マツ「もちろんさ。今日は何時に戻るんだい」

仁志「いや、だからさっき妻を病気にしましたと。これが終わったら帰ります」

マツ「そうかい、悪いねえ。16時ぐらいまで付き合って。そしたらそのまま帰っていいから」

仁志「わかりました」

マツ「タクシーまたしているんだ。この階段登るよ。あたしは足が悪くてねえ。すまな
   いがおんぶしてくれないかねえ」

仁志「わかりました」

仁志はマツをおんぶして階段を登る。登り切る仁志。下して、息をきらす。

マツ「あたしなんか重くないだろう?」

仁志「・・いやそうですけど」

マツ「あそこにタクシーいるから呼んできてくださる?」

仁志「わかりました」
   
仁志は少しよたりながら、タクシーに近づき手を挙げる。

運転手「これ、人待たせている車なんで、すみませんが」

仁志「いや、80ぐらいのおばあちゃんでしょ? こっちに来てといっているから」

運転手「ああ、そうですか」
   
運転手は車を動かし、マツのいるとこへ行く。仁志は小走りに追いかける。

マツ「じゃあ、いくよ、のって」

仁志「はい」
   
タクシーが出発する。

マツ「近くて申し訳ないんだが、佃のリンコス前でいいかねえ。足が悪くてねえ」

運転手「了解しました」

仁志「リンコスですか? また買い出しとか」

マツ「いや、今日は茂は呼んでない。イヤなことがあってねえ」

仁志「なんか感じ悪いからね」

マツ「今日はリンコス前のレストランでいいかねえ」

仁志「どこでも結構です。ちょうど腹がすいてきたとこで」

運転手「もうすぐ着きますが、リンコス前でいいですね?」

マツ「はい。そこでお願いしますね。5千円でいいかねえ」

運転手「え? 送迎代あわしても1200円程度ですが」

マツ「いいんだよ」

仁志「そう、いいの、いいの」
   
マツは仁志に5千円渡す。

マツ「仁志。降りるとき運転手に渡して」

仁志「わかりました」
   
タクシーが停車する。先にマツが降りる。仁志は運転手に五千円渡す。

運転手「君のパトロンかい?」

仁志「失礼な奴だ」
   
仁志はタクシーを降りる。タクシーが走り去る。

仁志「ふん」

マツ「どうしたんだい?」

仁志「なんでもないです」

マツ「2階のレストランもなかなかいけるんだよ。何食べる? スパゲティかい?」

仁志「なんでも」

マツ「お前が食べたいものいうんだよ」

仁志「じゃスパゲティで」

マツ「じゃあ、2階にいくよ。ああ、こちらにエスカレータあるからねえ。あたし足が悪くてねえ」

仁志「はい。わかりました」

 
レストランの中(昼)
仁志はスパゲティを食べ終わる。  

仁志「なかなかいけますね」

マツ「そうだろう?」

仁志「先ほどの誰でしたっけ。料理作る人」

マツ「ああ、あのろくでなしか」

仁志「何かあったんですか?」

マツ「ちょっと喧嘩してねえ。辞めてもらったよ。お前、代わりにやらないかい?」

仁志「いや、今の仕事あるし、料理は得意ではないので」

マツ「雑用でいいのさ」

仁志「またその話はあとで。でましょうか」

マツ「じゃ1万渡すから会計やっておいてくれないかねえ」

仁志「わかりました」
   
仁志は会計をする。

マツ「じゃあいくよ」

仁志「はい」

 
佃のマンション(夕)
時計は16時20分を指している。

仁志「だからここは、これを押すと」

マツ「ああ、そうだったねえ。もう疲れたねえ。もう終わりでいいや。じゃあもう帰っ
   ていいよ。今日の特別講師料ね」
   
マツは仁志に三万を渡す。

仁志「では今日は失礼して、今日だけですよ。
 
授業のある曜日だけでお願いします」

マツ「はいはい、わかったよ」

仁志「では失礼します」
   
仁志が玄関に行き、ドアを開けて部屋を出る。

仁志「なんだ、3万ぽっちかよ。これでも、結構危ない橋渡っているのに」
 

自宅(夜)
   仁志が玄関を開ける。愛理は不審がって玄関に来る。

愛理「仁志? どうしたの。まだ、5時半よ」

仁志「今日は早く帰れたんだ」

愛理「今日あなたの夕飯作ってないわよ。あなた昨日はどうしたの? 何も言わないか
    ら作っておいたのに食べないで」

仁志「あ、わりいわりい。連絡するの忘れた。今日の夕飯ないのかよ」

愛理「ああ、冷蔵庫に昨日のやつがまだあるわよ」

仁志「なんだ、昨日のか」

愛理「何よ」

仁志「昨日の夜は美味しかったのにな」

愛理「なんですって? 接待とか? とりあえず連絡はちょうだいよ」

仁志「あ、そうそう、いい話があるんだ」
   
仁志は財布の札束を見せる。

愛理「何それ? どうしたの?」

仁志「何だと思う?」

愛理「ボーナスとか。それなら許す」

仁志「いや、臨時収入さ、タブレットの生徒さんからもらったんだ」

愛理「ええ? 何それ?」

仁志「特別にタブレット個人授業してあげたら20万もらったんだ」

愛理「ちょっと待って。会社そんなサービスしてた? というか満額もらえるものなの?」

仁志「会社には内緒さ。これからお金いるだろ? 唯ももうすぐ塾いかないと」

愛理「ちょっと待って。 賄賂? 会社知らないの? まずくない?」

仁志「大丈夫。ばれないよ。うまくやってる」

愛理「あたしは反対ね。会社がそういうサービスやってるならいいけど。 その個人授
    業の間の時間どうやって作るの?」

仁志「うるさいな。喜んでくれると思ったのに」

愛理「その生徒さんにお金返した方がいい」

仁志「大丈夫。大金もちのおばあちゃんさ」

愛理「おばあちゃんって、その人いくつよ?」

仁志「78だよ」

愛理「悪いけど、いつ死ぬかわからないじゃない」

仁志「それまでにたくさんもらうさ。3千万ぐらいすぐだよ」

愛理「会社、首になったらどうするの? そんな危ない橋、反対」

仁志「いいよもう。一人で食べる」

愛理「ねえ、考えなおして。唯が大学卒業するにはまだ10年もあるのよ。その頃その
 人、90近いわ。真剣に考えて。今は低くても普通に働いて」

仁志「もういいよ」
   
仁志は冷蔵庫からカレーを取り出す。

仁志「カレーかよ」

愛理「悪かったわね。カレーで。昨日はいいもの食べたんでしょうね。私は反対だから」
   
愛理は居間のドアを閉めて去る。

仁志「勝手にしろ! 今に見てろ。こんなぼろぼろアパートから早く脱出だ」
  
 仁志はカレーを電子レンジにかける。

 事務所(朝)
    時計は8時55分を示している。スタッフは静まりかえっている。仁志が入室する。

東「おい! 社長が呼んでるぞ」

仁志「わかりました」

東「・・・クズめ」

仁志「え?」

東「早くいってこい」
   
仁志は荷物を自分の机の上に置き、社長室をノックする。

谷口「誰だ?」

仁志「仁志です」

谷口「入れ」
   
仁志は入室する。

谷口「そこに座れ」
  
仁志は椅子に座る。

谷口「まずはお前に聞きたい。昨日はお前の妻が高熱を出したんだったな」

仁志「はい。なんとか今日は下がりました」

谷口「それは本当だな?」

仁志「はい」

谷口「そうか。では聞き方を変えよう。昨日ある受講生から電話があった」

仁志「名前は伏せるが、賄賂をもらって個人レッスンしたという電話があったが本当か」  

仁志「・・あ、いや、知らないです」

谷口「知らないのか? お前は知らないんだな?」

仁志「・・あ、はい」

谷口「一応調べさせてもらった。マツさんに電話して聞いたんだが間違いないといっていたが?」

仁志「・・え・・・あ」

谷口「一昨日と昨日はお前はどこにいた?」

仁志「それは・・」

谷口「佃じゃないのか? 今日、お前、わしに全部嘘を言ったことになるが?」

仁志「すみません。もうしません」

谷口「当たり前だ。それにこちらにもお前に提示する条件がある。まずもらった賄賂を
    すべてマツさんに返せ。そしてもう近づくな。二つ目、タブレット講師職を解く。し
    ばらく事務所にいてもらう。3つ目、主任を解く。主任手当はないと思え」

仁志「それはちょっと・・・」

谷口「なんだ? 本来なら解雇処分でもいいんだぞ。だが、お前は家庭持ちだから大甘処分だ」

仁志「給料16万じゃちょっと」

谷口「では選択してもらおうか。今、わしが云った条件で働くか、辞職するか」

仁志「マツさんにつけば一千万はすぐだ」

谷口「では辞職するのか? 自分から辞めるということでいいな?」

仁志「・・ああいいよ」

谷口「退職金はでないぞ。しかも会社都合ではないからな。それでいいな?」

仁志「こんなケチな会社なんてもういいよ。給料30万もらってたらやらなかったさ」

谷口「いっとくが歩合制だ。南大沢、次回0だろう?」

仁志「もういいよ」

谷口「そうか、辞めるでいいな」
   
谷口は社長室のドアを開けて叫ぶ。

谷口「おーい。中野君、辞職手続き宜しく」

中野「了解しました」

谷口「あほだな。まあ頑張りたまえ。あとは中野さんに従え。以上」

仁志「・・失礼します」
   
中野は離職票をいじっている。

中野「辞めるんですね」

仁志「ああ、16万ならもうちょっといいとこあるさ」

中野「そのおばあさんの世話すれば?」

仁志「そのつもりさ」

中野「あたしならやらないけど。では処理しますね」

仁志「ちょっとトイレいってきます」

中野「どうぞ」
   
仁志は事務所を出て、階段付近の場所で煙草を取り出す。1本吸って、電話をかける。

仁志「ああ、マツさん! なんで会社に云ったんですか? 首になったんですよ。どう
    してくれるんですか?」

マツ「・・ああ、仁志か。まあそんな会社辞めちゃいなさいよ。ちょうどいいわ。あた
    しの世話をしてくださらない? それでいいでしょ?」

仁志「10歳の娘がいるんだ。これからどうすればいい? マツさん90になるまで金
    くれるのかよ!?」

マツ「ああ? 大きな声ださんなや。そうだな、一年間世話してくれたら」

仁志「一年間?」

マツ「最後までききなはれ。一年間、世話してくれたら、それとは別に500万やるか
   ら、何か会社でもおこしたらどうだい?」

仁志「なるほど、それはいいな」

マツ「心配するなや。損はさせないさ」

仁志「約束ですよ」

マツ「仕事辞めたんなら、佃にきてくれないかねえ。明日からでいいよ」

仁志「明日、伺います。宜しく」
   
仁志は電話を切る。煙草を吸う。  


家(夕)
家の時計は16時30分を指している。
仁志は今の椅子に座り、スマートフォンでドラマを見てニタニタしている。
愛理が鍵を開けて入室する。

愛理「なんでこの時間にいるの?」
   
仁志はイヤホンを外す。

仁志「あ?」

愛理「あ、じゃなくて、なんで遊んでいるの」

仁志「会社やめてきた」

愛理「え? 嘘でしょ? なんで?」

仁志「昨日の件がばれた。 首じゃないが、講師職と主任を剥奪され、給料が2万落ち
    るから、それなら辞めるといってきた」

愛理「あんた、馬鹿じゃないの? 不正したんだから降格は仕方ないにしても思うけど
   また頑張ればいいじゃない」

仁志「もう遅い。辞めるといって、離職票もらってきた」

愛理「今からでも遅くない。会社に電話して
    謝って。16万でも働いて! 一生16万な訳じゃないでしょ?」

仁志「俺、マツさんにつくことにした」

愛理「誰よそれ? 昨日いってた、お婆さん? 本気で言ってるの?」

仁志「一年間、お世話できたら500万円別 にくれて、会社おこしていいと云われた。
    絶対そちらの方がいい」

愛理「78のぼけた、お婆ちゃんでしょ? 
   なんか書面でももらったとでも? ないでょ。あんたなんか500万もらっても、
   パチンコですっからかんよ」

仁志「俺は変わる」

愛理「現実をみなさい! 今から会社に電話して謝って!」

仁志「嫌だ。俺はこの暮らしから抜け出したいんだ」

愛理「それはいいけど、その方法は辞めて」

仁志「もう決めたんだ。大丈夫。うまくいく」

愛理「ついていけない。なんで相談しないの」

仁志「相談もなにも瞬時に決めなければなら
   なかった」

愛理「賄賂のこと? それは断るべきだし。会社のこと、唯のこと考えた? あなたは
    夫であり父でしょ? なんで? ついていけない」

仁志「大丈夫。俺についてこい。1年間で500万円、そして起業家だ」

愛理「どうせ起業っていっても何も決めてな いんでしょ。計画性も微塵もないわ。ついていけない」

仁志「とにかく俺は決めたんだ。明日からマツさんについていく」

愛理「反対」

仁志「もういい。トイレ行く」
   
仁志はトイレに入る。愛理は仁志のカバンを開けて離職票を抜き取る。

 
佃のマンション(昼)

仁志はインターホンを押す。鍵が開き中に入る。

マツ「どうしたんだい? 怖い顔して」

仁志「マツさん、お願いがあります」

マツ「なんだい?」

仁志「俺は会社やめて、あなたにつきました」

マツ「良かったねえ」

仁志「だから保証が欲しい」

マツ「保証? なんだいそりゃ」

仁志「月あたり50万と1年経ったら別に500万」

マツ「金はどうでもいいんだよ」

仁志「うちは大事なんです。妻に言われて」

マツ「月あたり50といったっけ? 20とはいったけど」

仁志「ちょっと待ってください。50はいただかないと。会社の収入がなくなるんだか
    ら、あわして倍の値段だからお請けしたんで」

マツ「なんだい、うるさいねー。まあ50でもいいさ。そのかわりタブレットだけじゃ
   なくていろいろやってもらうよ」

仁志「そ、それでもいいです。50もらえれば」

マツ「朝7時から夜10時までいろいろやってちょうだい」

仁志「じゅ、15時間拘束なんて聞いてない」

マツ「ごちゃごちゃいわずにとりあえず、タブレット教えてちょうだい」

仁志「話がまとまったらいくらでもやります」

マツ「面倒な男だね。男はだまって奉仕する。金はそれから自然についてくるものさ。何
   も考えず奉仕なさい」

仁志「その後の500万の話は? 妻に証明書をみせたい」

マツ「だから、金、金いうなや。あいつみたいになるぞ」

仁志「あいつって誰だよ」

マツ「とにかくだまって1年奉仕なさい。話はそれからだ。さあ、ごちゃごちゃいって
   ないでリンコス行くよ。お腹すいてるからごちゃごちゃいっているのかい?」

仁志「いや、そうではないけど人生かかっているんで」

マツ「人生なんてもんは流れに乗ることさね。金に執着するほどお金は去っていくものさ。
   覚えておくがいい。さあ、いくよ」
   
二人は玄関をでる。歩いてエレベータに乗る。

仁志「ほんとお願いします」

マツ「とりあえず、お肉でも食べて落ち着きなさい」
   
二人はリンコスの前の階段に差し掛かる。菅野金成(45)が両手の指を握りしめ仁志を睨む。

金成「誰だ? お前は?」

マツ「ここに来るなといったろう! 金成」

仁志「金成?」

金成「おい! お前、遺産は渡さないからな」

仁志「遺産?」

マツ「あんた、あたしはまだ生きとるんじゃよ! 失礼な」

仁志「そうだ、失礼な」

金成「お前に言われる筋合いはない。母さん、はやくここを出て若葉台に戻れ。 無駄なお金使うな」

マツ「お前に遺産は残さん。わしが全部使う」

金成「父さんが稼いだ金だろう! 母さんの稼いだ金じゃない!」

マツ「うるさい。あんたは金しか考えてないだろう。それがイヤでここにいることまだ
   気づかんのかい! 気づかんだろうね」

金成「こいつにいくら払ってんだ!」

マツ「あんたに関係ないだろう」

仁志「ちょっと待って。月50は大丈夫なんだよね?」

マツ「あんたも金の話をするんじゃない!」

金成「こいつに50も払っているのか! おい! 3万やる。手ぎれ金だ! さっさと
    消えてくれ」

仁志「それは困ります。会社やめてまでここにきているんだ!」

マツ「二人ともうるさい! 金成も仁志ももう来ないでくれ」

仁志「ちょっと待ってください! 話が違う」

金成「おい! 殴られたいか! その前に消えろ!」

仁志「んあ? マツさんこいつおっぱらってくださいよ。ちゃんと奉仕する」

マツ「あんたももっと素直でいい子だと思っていたよ。金、金言わなければ庇ってやったのに」

仁志「ちょっと待ってください。30でもいい。いや25でもいい。会社辞めた今は俺にはマツさんしかいないんだ!」

マツ「お、いいこというじゃないか」

金成「貴様!」
   
金成が仁志の顔をなぐる。仁志は倒れる。

マツ「金成! 帰れ! お前のでる幕はない」

金成「お前は地獄に落ちろ」

仁志「・・なんとでもいえ」

金成「こいつ」
   
金成は倒れている仁志の胸ぐら掴んで
もう一度殴る。マツが金成の行動を止めようとして階段を降りようとしたときにふみはずし、倒れる。マツは動かない。

金成「母さん」

仁志「大丈夫ですか?」

金成「お前は近づくな! これから病院に連れていく! ただえさえ足が悪いのに」

仁志「病院に連れていきます」

金成「もう一度殴られたいか! お前はただの他人だ。3万だ。拾いたければ拾え。だ
 がここには近づくな。何か話したようだが全部なかったことにしてもらいたい。さあ、去れ!」

仁志「俺の、家族の生活はどうなるんですか」

金成「知ったことか! 救急車だ! 呼ぶぞ」
   
金成はスマートフォン取り出す。

金成「母が転んで頭打って動かない。すぐきてください」
   
リンコスの前に人だかりができる。

金成「まだいる気か。そこで呆然としてろ。救急車には乗せないからな」
   
救急車が到着し、マツは担架で運ばれる。金成が救急車に乗り込む。あたり
は暗くなり、雨が降り始める。仁志は しばらく呆然と立っている。

仁志「・・・終わりだ、いや、終わらせたくない。どうすればいいのだ?」
   
仁志は財布を見る。札束が見える。

仁志「この30万で500万にする」


パチンコ屋(夜)
不機嫌そうな顔つきでパチンコをしている仁志。玉がつきる。

仁志「くそ、くそ、くそ」
  
仁志は台を叩いて外に出る。財布を見る。札束がない。

仁志「くそ、たばこ買う金もない」
   
仁志は雨だれてはっとする。

仁志「しまった! サラ金に10万借りてるの忘れてた」


家(夜)
仁志はドアを開ける。真っ暗である。
仁志は居間の電気をつける。
テーブルにメモが置いてある。仁志はそのメモを読む。メモには「しばらく
娘連れて実家に帰ります」と書いてある。仁志は頭をぐしゃぐしゃやる。

仁志「なんだと? 俺のどこが悪いんだ! うおおおおおおお。仕事も家族も失った。
 そうだ! もうマツさん意識回復しているかもしれない。マツさんの携帯に繋がれば
 希望は持てる」
   
仁志は電話をかける。「この電話は現在使われておりません」のアナウンスが流れる。

仁志「解約させたのか! もうダメだ!」
   
仁志は居間にある灰皿から煙草を拾い
ライターで火をつけ吸いながらうろうろする。

仁志「恥だが、社長に泣きつこう。仕方ない」
   
仁志は社長の携帯に電話する。

谷口「誰だ?」

仁志「仁志です」

谷口「もう用はないと思うが、一応聞こうか」

仁志「私が愚かでした。16万でも主任剥奪
   でもいいです。妻が出ていってしまいました。助けてください」

谷口「目の前の金に魂を売った代償は大きかったな。お前、離職票は出したか?」

仁志「あ、そんな手続き忘れていた、ええと」
   
仁志は居間にある鞄を開けて確認をするが、見当たらない。

仁志「ない、ない」

谷口「愚かな奴だ。それに奥さんに感謝するんだな。今日、お前が外出中にうちに電話
   があり離職を保留させてほしい旨あった。だから処理は総務で保留中だ。お前、明日
   9時にこい。チャンスを1度だけやる」

仁志「ありがとうございます」

谷口「奥さんに電話しろ。お前は夫であり、父だろう!」

仁志「おっしゃるとおりです」

谷口「明日来い、15分前には来い」

仁志「わかりました」
   
電話を切る。妻の実家に電話する。愛理が出る。

愛理「どちらさまですか」

仁志「俺だ。俺が悪かった。社長に謝罪し、明日から会社戻ることになった」

愛理「よかったわね。でも私はあなたが根本的に変わらないと戻らないからね。社長に
    明日、お話を聞いて連絡ちょうだい」

仁志「わかった」
   
仁志は電話を切る。
 

事務所(朝)
時刻は8時40分を指している。

東「お前誰だ? 見慣れない奴が早めに来たな。お前誰だ?」

仁志「すみませんでした。俺変わります」

東「ほおー。じゃみせてもらおうか」
   
東が大声だす。

東「社長、仁志きましたよ」

谷口「仁志、社長室へこい」
   
仁志は社長室に入る。

谷口「とりあえず座れ」

仁志「はい」
   
仁志は座る。

谷口「受講生の話はどうでもいい。まずは教師職と主任解く。いいな。16万だ」

仁志「はい、それでお願いします」

谷口「それと、半年間はお前に給料を振込まない。お前の奥さんに直接、手渡す。お前
   はパチンコにはまってるそうじゃないか。稼ぐ以前の問題だ。お前」

仁志「あ、・・わかりました、でも10万だけください」

谷口「なんでだ?」

仁志「サラ金で10万借りてて」

谷口「それも含めてだ! 10万こちらが、たてかえしてやる。そのかわり、1年間、
   収入は15万とする。いいな」

仁志「・・・はい」

谷口「お前、劇的に変われ。お前にチャンスを与えてやる。お前は教職は向いてない。何がやりたい?」

仁志「実は俺は映像が好きで映画を撮りたい」

谷口「ではこうしよう。お前、今日付けで、デジタルコンテンツ販売部に移動を命ずる。
 もともとは教材ビデオをとって販売する部門だがそこで勉強して、売れるものを考え
 ろ。教育がテーマで何か自分で考えろ」

仁志「ありがとうございます」


 一年後会議室(昼)
   
仁志はプレゼンをしている。

仁志「以上で説明は終了です」

谷口「はい、質問なければ解散」
   
会議室からスタッフが退出する。

谷口「なかなかいい企画書とプレゼンだな」

仁志「社長のおかげです」

谷口「おばあちゃんの世話とどちらがいい」

仁志「もうその話やまましょうよ。ははは」
   
<END>