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旅のテーマVER2.

 

 登場人物

音光楽次(40)サラリーマン

音光愛理(41)楽次の妻

音光柚月(14)楽次の娘

谷口稔(59)派遣元の社長

田中恵子(66)精神科の先生

スマホ教室の人々

派遣社員の人々

音楽営業の人々

会社の作業員の人々

一般人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇テナントの教室前(東京・午後)

    スーツ姿の楽次(40)が鞄を持って、教室前に近づく。

    教室前には白髪の受講者、太郎(68)とゴージャスな

    衣装をきた、華子(72)が立っている。シャッターに

    は閉まっていて張り紙がしてある。太郎は楽次に気づいて

    走り寄る。

 太 郎「おい! 楽次先生! これはどういうことだ? 」

 楽 次「え? 何ですか? 何か起きたんですか? 」

 太 郎「とぼけるな! あれを見て見ろ! 」

 楽 次「え? 何が起きたんですか? 」

    楽次はテナントの前に走り寄り、張り紙を読む。張り紙に

    は「突然ですが当教室は7月31日を以て閉校いたしまし

    た エービーシスマホ教室」と書いてある。

 楽 次「な? 」

 太 郎「な? じゃないよ! 新しい講座始まったの先週からだ

    ぞ! まだ7回分残こっているじゃないか」

    華子は無機質そうに楽次を見つめる。

 華 子「お金は返していただけるのかしら? 」

 楽 次「いや、その・・ちょっと確認します! 」

    楽次は急いでポケットからスマホ取り出し、代表に連絡

    するも、呼び出し音しかならない。

 太 郎「夜逃げでもしたんじゃねえの? 」

 楽 次「いや、それはまだなんとも。」

    楽次は他の電話番号をかける。

 華 子「この人、最初から知ってて演じているのかしらね? 」

    楽次はスマホをいじりながら、華子に振り向く。

 楽 次「あ、いや・・自分は全く知らない・・・」

    太郎は楽次の腕をつかむ。楽次は焦った表情をする。

 太 郎「電話はもういい。」

    楽次はスマホをしまって、鞄を開けてプリントを出す。

 楽 次「いや、信じてください! 私は昨日ラインの手順が変わ

    ったことに気づいて、手順書を作り直してプリントしてき

    たんです。」

 太 郎「もはやお前を信じるか、信じないかの問題ではない。」

    華子はつんつんした表情でプリントをみる。

 華 子「そうねえ。知っているなら、ここに来ないかもねえ。

    で、あなたは、他の場所借りて、授業をしてくれるの?」

 楽 次「東京って貸し会議室高いし、今日の今日なんて無理です」

 太 郎「楽次先生よ。いつでもいいから、代わりの授業をやって

    くれ。それと、お前の代表の携帯番号教えろ。」

    楽次は焦ってスマホ取り出して、代表の電話番号を太郎に

    見せる。太郎は書き留める。華子はプリントを丸める。

 華 子「あたしはもうどうでもいいわ。あれね、高齢者を狙った

    新たな詐欺会社? はあー。ひっかかったのね。私達。」

 太 郎「俺は許さねえ。 で、どうするんだ? 先生はよ」

 楽 次「とりあえず、確認します。必ず、フォローします」

 太 郎「当たり前だ。何とかしろ。」

 

 〇楽次の家(夕方・東京)

    愛理(41)は居間で、野菜炒めを作っている。愛理

    の娘・柚月(14)は自分のスマホでユーチューブを

    見ながら、ドーナツを食べている。愛理は困った表情

    しながら、柚月を見る。

愛 理「柚月。スマホいじりながら、食べるのよしなさい。

   もうすぐしたら夕飯よ。我慢できないの?」

柚 月「お腹すいちゃうんだもの。しょうがないじゃん。」

愛 理「そのうち太っちゃうわよ。」

柚 月「あたし、痩せの大食い体質。」 

愛 理「体質なんて変わるわよ。」

    楽次が大きな音立てて玄関を開ける。        

 楽 次「大変だ! 愛理! 大変なんだ! 」

    愛理はガスコンロの火を止める。

 愛 理「びっくりするじゃない。 強盗かと思ったわよ。」

 楽 次「それどころじゃないんだ! 職場に繋がらないんだ。」

 柚 月「学級閉鎖って感じ? 」

 楽 次「もっとひどい! 会社が夜逃げした! 」

 愛 理「落ち着いて。 ちょっと座って。」

    楽次は居間の椅子に座る。愛理は料理箸をフライパンに置

    いて座る。柚木は興味なさそうにしてユーチューブを見る。

 愛 理「何があったのよ? 」

 楽 次「今日、いつものように、30分前に職場に行ったら、張り紙がしてあって、当教室は先月末で閉店すると。」

 愛 理「え? 授業はどうしたのよ? 」

 楽 次「やってない。教室の前に太郎さんと華子さんいて、責め

    られたよ。どうしてくれるんだと。」

 愛 理「受講者さんにとってはそうかもね。で、一時的な閉鎖とかじゃないの? 代表には連絡ついたの? 」

 楽 次「つかないんだ。 俺は失業か? 」

 柚 月「ドコモだっけ? ソフトバンクだっけ? そこに言えばいいじゃん。繋がってるんでしょ? 確か借りてたじゃん」

 楽 次「あれは買ってただけだ。借りてない。」

    愛理が椅子に座る。

 愛 理「ちょっと待って。給料日、昨日だったわね? ちゃんと

    振り込まれてる? 」

 楽 次「あ・・」

 愛 理「ちょっと確認して。」

    楽次はスマホをいじって、銀行の残高を見る。

 楽 次「・・はいってはいる。」

 愛 理「とりあえずは、今月分は確保ね。で? 繋がんないの?」

 楽 次「何回かけても出ないんだ。 くそ、どうしたらいい?」

 愛 理「倒産したと、最悪考えてもいいかもね。連絡つかない

    のならすぐにでも就職活動したほうがいいわね。柚月がいることだし。」

 楽 次「倒産! やはり倒産か? 」

 柚 月「お父さん、夏休みだね。」

 愛 理「柚月はちゃかさないの。真剣な話なのよ。」

    楽次のスマホがなる。

 楽 次「代表か? いや、太郎さんか。」

 愛 理「誰? 」

 楽 次「受講生だ。 補講の話だ、多分。どうする・・」

 愛 理「でなくていい」

 楽 次「え?」

 愛 理「前にもいったことあるけど、うちの生活、第一に考えてくれる? 補講? あなたが責任とることじゃないわ。」

 楽 次「し、しかし・・」

 愛 理「しかしもへったくれもないのよ。」

    愛理は楽次のスマホを、ソファに放り投げる。

 楽 次「あ、壊れちゃうじゃないかよ」

 愛 理「あなたは会社に捨てられたの」

 柚 月「お母さん、そんな言い方しなくたって」

 愛 理「いいの。我慢してたけど、今回言うわよ。あなたは、正社員じゃないでしょ? 非常勤職員のフリータみたいなもの

   でしょ?」

 楽 次「フリーターって。一応、契約だけど。」

 愛 理「フリーターみたいなものよ。社員の人は今回のこと知らされていたんじゃないの? 非常勤には云わないんじゃないの? いい機会ね。転職して正社員になってください。柚月

   の進学のこともあるし。ちゃんとそういうこと考えてる? 」

    楽次はテーブルを軽く叩く。

 楽 次「考えてるよ! 柚月は映像系の高校いきたいんだろ?」

 柚 月「あたしはいいよ、どうでも。」

 愛 理「楽次は、家族優先じゃないのよ。どこかで」

 楽 次「そんなことないよ! 」

 愛 理「そうかな? 独身気分がいまだに抜けてないんじゃない? おっかけを辞めないし。 おっかけの為に会社休暇をと

   るし。」

 楽 次「それはお前も、いいといってくれてたじゃないか! 」

 愛 理「状況は変わっていくものよ。ファンサイトだって。いまだに続けて。」

 楽 次「あれだけは続けたいんだ! 」

 柚 月「あたしはお父さんのサイト好きだよ。」

 愛 理「柚月は黙って! スマホとかいじっているなら、向こう

    にいってて」

 柚 月「やだ」

    柚月はテーブル席からソファに移って座る。

 愛 理「感情的になってもしょうがないわね。じゃ、こうしましょう。楽次は今のところ諦めて、就職活動してください。

    一カ月以内に正社員になってください。出来なかったら、

    ファンサイトは辞めてください。」

    楽次は立ち上がって頭をむしる。

 楽 次「ファンサイトは関係ないじゃないか! 」

 愛 理「けじめです。そのくらい真剣に転職活動してくれないと、ファンサイトどころか家庭が崩壊します。」

 柚 月「もういいから、食べよ。お腹すいた。」

 楽 次「二人で食べててくれ。俺はそんな気分じゃない。」

    楽次は居間から自分の部屋へ入る。

    柚月は立ち上がり、嫌な顔してテーブルの椅子に座る。

 柚 月「お母さん、いいすぎよ。」

 愛 理「わかっているけど、お父さんにはあのくらい言わないと」

    愛理はフライパンに火をつけて野菜炒めを調理する。

 〇楽次の部屋(夜)

    楽次はパソコンで自分の作ったファンサイトを閲覧してい

    る。楽次はうっすら、涙を浮かべ、サイトを見ている。

 楽 次「17年か。」

    柚月がノックをする。

 柚 月「柚月だよ。入るよ。」

 楽 次「ああ、柚月か。」

    柚月は肘を使ってドアを開ける。手には、ハンバーグと野      

    菜がもってあるお皿と箸、左手にはゴマタレソースとシュ 

    ―クリームをもっている。

 柚 月「お腹すいているんでしょ? 本当は。もってきたよ」

 楽 次「ありがとう。柚月は優しいな。」

    柚月は、パソコンの置いてある台に皿とお箸、ゴマダレを 

    置く。シュークリームの袋を開けて食べる。

 楽 次「シュークリームは柚月のなのね」

 柚 月「これはあたしの。」

    楽次はサランラップをとり、ゴマダレをハンバーグにかけ 

    る。箸をもって食べる。

 柚 月「大丈夫だよ。お父さん。お母さんだって、本気でファン

    サイト閉鎖しろとはいってないよ。」

 楽 次「わかっているさ。ただ、お前のこともあるし、お母さん

    の言うとおり、このサイトからちょっと距離を置かないと、

    いけないな。」

 柚 月「あたしは大丈夫だよ。別に映像の専門の高校行かなくて 

    も独学でなんとかするよ。」

    柚月はシュークリームを頬張って食べる。クリームが少し

    こぼれて、指を舐める。楽次が微笑む。

 楽 次「柚月はユーチューバーになったほうがいいかもな。」

 柚 月「じゃあ、お父さんはあたしのファンサイト創って。」

    二人は笑う。

〇木場ハローワーク

    楽次はパソコンで求人一覧を閲覧している。ひとつの求人を見つめ、腕を組み、そして印刷をする。楽次は受付に持って行って受付をする。

受 付「ではこちらの番号でお呼びいたしますのであちらの空いてる席でお待ちください。」

楽 次「はい。」

    楽次は空いてる席に座り、スマホを取り出し転職アプリを操作する。時計が9時45分を指している。

係「15番でお待ちの方、こちらの席へどうぞ。」

楽 次「はい。」

    楽次はカウンターに行き、印刷された紙を渡す。

楽 次「これなんですけども。」

係「えっとこちらで。音光楽次さん。40歳。離職票手続き

  されてないですが、フリーターの方ですか? 」

楽 次「いや、正確には会社が倒産して。でもフリータみたいな

    身分だったので、離職票はでない。」

係「そうでしたか。ご愁傷様です。それでITの会社の音楽営業を。ご希望と。」

楽 次「前職が、シニアタブレット講師だったので、少しはITのことはわかるかなということで、しかもこの求人はITの知識・年齢不問とあったので。」

係「では、一応、企業様に連絡してみます。」

    係は電話をする。

係「お忙しいところすみません。こちら木場にございます、職業安定所でございます。御社の音楽営業で面接希望の方がいらしておりますが、人事ご担当者様、あ、はい。そうです。音楽経験。ちょっと訊いてみます。」

楽 次「自分の曲を30曲持ってます。それと音楽系ファンサイトを17年管理しています。」

係「はい。ご自身で曲があり、音楽系ファンサイト、長く、

     管理されているみたいです。・・はい?訊いて

     みます。音光さん。」

 楽 次「はい。」

   係「そのサイト、事前に拝見したいそうです。」

 楽 次「大丈夫です。」 

係「大丈夫だそうです。あと先ほどのサイト、

 はい、検索で見つけられるか? はい。 訊いてみます。

 音光さん、先ほどのサイト検索できるか訊かれています。

 あ、こちらにお書きください。」

 係は紙とボールペンを楽次の傍に置く。楽次は「平松愛理 ファン」と書く。係が読む。

係「お待たせしました。ひらまつ・・あいり」

 楽 次「えりです。」

   係「ひらまつえり 一文字開けて、ファン。 あ、見つかり

     ました?」

 楽 次「平松愛理ファンサイト BON CRESCENTです。」

   係「・・はい、BON CRESCENTです。・・はい。面接。 持ち物、履歴書と、職務経歴書、筆記用具。了解いたしました。はい、明日の朝10時。訊いてみます。」

 楽 次「大丈夫です。」

   係「了解いたしました。それでは宜しくお願いします。失礼します」

    係は電話切る。

係「よかったですね。すぐ面接です。今、40歳で即、面接

  なんてほとんどないですよ。本当によかったですね。」

 楽 次「ありがとうございます。」

   係「持ち物は、履歴書と職務経歴書、筆記用具。場所は求人  

    表に書いてあるとおりです。頑張ってきてください」

 楽 次「ありがとうございました。」

〇アイティシステム株式会社前(朝)

    入り口受付に電話が置いてある。楽次は受話器を取り受付番号押す。

楽 次「お忙しい所恐れいります。本日、10時より面接を受けることになっています、音光楽次と申します。」

声「少々お待ちください」

    しばらくして谷口稔(59)が、子走りに受付に登場する。

谷 口「おお、君が、音光君か、こっち来てく

    れる?(大声)Aルーム入ります。」

楽 次「あ、はい。宜しくお願いします。」

    二人は小さい会議室に入る。

谷 口「座って、座って。」

楽 次「失礼いたします。」

    二人は椅子に座る。

谷 口「社長の谷口です。履歴書、職務経歴書見せてくれる?」

    楽次は鞄から書類を取り出し谷口に提出する。谷口は書類を見る。

谷 口「直近はシニアタブレット講師してたのね。んん。大丈夫だろう。ああ、ファンサイト見たぞ。あれだけのコンテンツそろえるの大変だったろう?」

楽 次「自分の好きなことはとことんやるタイプなので。」

谷 口「執着心があることはいいことだ。1つ質問、君の知り合いにバンドやっている人は多いか要するに、アーティストの知り合い多い?要するに、営業なんでね。」

楽 次「あ、います。自分は機械音楽やっていたので音楽も強いです。」

谷 口「あ、いるのね、いいだろう。それと、もう一つ大事なこと。まだ、音楽会社は準備中なので、最初の三か月、ITの派遣をやってもらって、時間ある時に、こち

    らに来てもらって作業することは可能?」

 楽 次「ITの派遣ですか?」

 谷 口「要するに、少しの間、ダブルワーク。まあ、最初のうちは音楽関係の仕事は少し。その条件をのんでくれれば、即決する。」

 楽 次「即決ですか? ファンサイトできる。 あ、ITの知識は

    あまりないのですが大丈夫ですか? 」

谷 口「難しい仕事じゃない。それに三か月だけの我慢。要するに、その心構えがあるか。額面は23万出す。どうだ?」

楽 次「ぜひ、やらしていただきます。」

谷 口「ならば即決だ。明日からこれるか?要するに明日、IT派遣の面接受けてもらって、即、仕事に就くことは可能か?」

楽 次「大丈夫です。」

谷 口「わかった。私からは以上。質問。」

楽 次「ここはITの会社なんですか?」

谷 口「そうだ。ただ、ゆくゆくはITの派遣だけでなくて、自分達で仕事を創っていきたいと思っている。君には、音楽会社のリーダーとして参画してもらいたいと思っている。それと何だ? 平松さん? それのマネージメントできるように頑張れ。」

楽 次「え? そういうこともやらしてもらえるのですか? 」

谷 口「ゆくゆくはだ。以上。他には。ないか。じゃあ、決まりだ。宜しく。」

   二人は握手する。

谷 口「私からはこれで以上。事務的な処理があるからまだいて。吉田さん呼ぶ。」

   谷口が会議室を出る。楽次がガッツポーズをする。

 

 〇楽次の家(夜)

    愛理が荷物もってドアを開ける。手には弁当の入った袋を持っている。楽次が玄関に出る。

 楽 次「愛理。やったぞ。即決だ。」

 愛 理「本当に? よかった! 音光家安泰!」

    二人は居間に移動する。

 楽 次「しかも明日からもう稼働しはじめる。」

愛 理「おめでとう。確か、音楽営業の仕事だっけ?」

楽 次「いや、そうなんだけど、最初の三か月は準備期間としてIT派遣もやることになったよ。」

愛 理「IT派遣。わかるの? タブレット講師とは訳違うでしょ? 大丈夫なの? 」

楽 次「社長曰く、そんなに難しい仕事じゃないって。そうそう、いきなり社長面談でびびったよ。で、この条件のんでくれたら即決だというから受けた。」

愛 理「そうなんだ。受かった瞬間、ファンサイトのことを考え

   ていたでしょ? 」

 楽 次「そんなことないよ。柚月や愛理のことを考えたさ。」

 愛 理「とりあえず、弁当買ってきたわよ。」

    愛理はテーブルに弁当を4つ置く。

楽 次「4つ?柚月、2つか?どうせ買い食いしてるから少な目でいいんじゃない?」

愛 理「買い食いあまりしてほしくないから。」

楽 次「柚月は?公文か?」

愛 理「そう。もう1時間もすれば戻るんじゃないかしら。」

   愛理は弁当を温める。

愛 理「そうそう、新しいところは、正社員で23万の給料で間違いない?」

楽 次「そうなんとか、その金額はもらえそうだ。契約書結んできたから間違いない。」

   楽次は愛理に契約書を見せる。愛理がその契約書を読む。

 愛 理「今度は大丈夫でしょうね? 家族の未来がかかっている             

     のよ。また夜逃げや倒産されたら、たまらないわ。」

 楽 次「大丈夫さ。それに、ファンサイトを評価してくれた

    んだ。ゆくゆくは、平松のマネージメントする事業を

    立ち上げてくれと。」

 愛 理「よかったじゃない。 まあ、あのサイトは閉鎖しなく

    てもよさそうね。仕事頑張ってね。」

    愛理はレンジから弁当取り出す。

愛 理「弁当だけど食べて。焼肉弁当だけど。」

楽 次「お前の弁当。それで足りるか?」

愛 理「あたしは、これで十分よ。」  

 

IT派遣場 (朝)

    小さな仕切りのある部屋にテーブルが1つ、左右対称

    に椅子が4つ。テーブルの上にはノートパソコンが3

    台。大きなモニターが2台置いてある。翔太(28)が

    慣れた手つきで、キーボードを打っている。

楽次は椅子に座ってパソコンを見てる。フェイシャルペーパーを取り出し、強く顔を拭く。時計は9時を指している。

   次郎(31)が鞄もって部屋に入ってくる。

次 郎「ういっす。」

翔 太「ちっす。」

   次郎が楽次をじろっと見る。

次 郎「いってた新人すか? 」

翔 太「ああ、思ったより使えねえ。」

次 郎「使えねえのかよ。」

   楽次が次郎に気づき、立ち上がる。

楽 次「音光です。宜しくお願いします。」

次 郎「宜しく。」

   次郎は軽く挨拶をして机に鞄を置く。翔太は楽次に近づく。

翔 太「音光さん、どうですか?初日、やって見て。できそうですか?」

楽 次「いやあ、初めて聞く用語ばかりで。リモートデスクトップとかテラタームとかピングとか。何のことだか。」

翔 太「ググレカス。」

楽 次「はい?」

翔 太「いや、タブレットの先生やってたからもう少しできると思ってたよ。簡単に言うと、主に病院のシステムの監視しているんだ。重要な医療用パソコンが使えなくなった

     ら重病人の生死に関わるからな。それらを監視し、異常時に1次受付するのがうちらの仕事。」

楽 次「生死にかかわるか。怖いな。」

翔 太「まあ、極端な例だよ。それから、用語はネットで検索すると出ているから、休みの日に調べておいてください。」

楽 次「わかりました。」

次 郎「じゃ、引き継ぎお願いします。」

翔 太「今日は夜勤帯で起きた案件については対応済。今日以外の引継ぎはノーツに書いておきました。」

次 郎「了解。お疲れ様でした。音光さんもお疲れ様でした。」

楽 次「お疲れ様でした。」

翔 太「音光さん、では退館しましょう。初日はまだ、カードがないので一緒に退館しますので、ついてきてください。」

楽 次「わかりました。」

    楽次は翔太について行く。

 

 〇ビル入り口(朝)

    警備員・茂(70)が部屋で座っている。

 翔 太「退館します。」

   茂「お疲れ様でした。あ、新人の方はここに名前書いてくだ

     さい。」

    楽次は受付簿に名前を書き、バッチを渡す。茂は受け取る。

 翔 太「ではお疲れ様でした。ではここで。」

 〇辰巳橋(朝)

    楽次はゆっくりと歩く。鞄からユンケルを取り出し、ゆっ

    くりと飲む。橋から川を眺めて溜息をつく。

 楽 次「思ったよりしんどいな」

    スマートフォンが鳴る。楽次はとる。

谷 口「どうだった?やっていけそうか?」

楽 次「あ、はい。なんとか」

谷 口「そうか。それはよかった。悪いんだけど、これから本社寄れる?渡したい課題がある。10時に来れる?」

楽 次「了解しました。」

谷 口「疲れているとこ悪いな。宜しく。」

    楽次はスマホをポケットにしまい歩く。

 

〇アイティシステム株式会社前(朝)

    楽次は事務所のドアを開ける。時計は9時55分を指している。楽次は社長室をノックする。

楽 次「社長。着きました。」

    谷口は小走りで、楽次に近づいて書類を渡す。

谷 口「音楽会社の件だけどな、その中に、今、うちが作っている動画配信システムの概要と、例の免責事項書類が入って

    いる。それを見て、音楽営業でかわす、契約書を作ってほしい。急がない。」

楽 次「了解しました。」

谷 口「次の勤務はいつだ? 」

楽 次「明日の夜です。」

谷 口「体調管理をうまくやって欠勤しないでくれ。」

楽 次「了解しました。」

谷 口「以上。お疲れ様。今日はゆっくり休んで。」

楽 次「お疲れ様です。お先、失礼します。」

    楽次は事務所を出る。

〇楽次の家(夜)

    楽次は布団から起き上がりリビングへ行く。リビングでは愛理と柚月が食事をしている。

愛 理「大丈夫?疲れているんじゃない?」

楽 次「この年で夜勤はつらいね。頑張るしかないけど。」

愛 理「夕飯はどうする?」

楽 次「どうするかな。」

    楽次は冷蔵庫開けて、シュークリームを取り出す。

楽 次「甘い物が欲しいかな。」

柚 月「それ、あたしの!」

楽 次「わかった、わかった。明日の昼には、買い足しておくから。」

柚 月「ならいいや。あげる。」

愛 理「大丈夫?続きそう?次の勤務は?」

楽 次「明日の夜さ。やるしかないな。」

愛 理「音楽の方はやれないの?」

楽 次「実は課題はある。合間にやるさ。」

    楽次のスマホが鳴る。

 楽 次「社長か? 」

    楽次は自分のスマホを見る。太郎さんと表示されている。

 愛 理「誰? 」

 楽 次「やべえ。太郎さんだ。」

 愛 理「タブレット補講の件対応できんの? まあ仕事繋がったから無理には止めないけど。」

 楽 次「無理だあ。ぶっ倒れてしまうよ。」

 柚 月「あたし、代わりに教えようか? 」

 楽 次「柚月。気持ちだけ。ありがとう。なかなか覚えてくれないよ。柚月みたいに慣れている人相手じゃないから。」

    電話が鳴りやむ。

 愛 理「それはもうほっとけば? 」

〇アイティシステム株式会社(冬・東京・昼間) 

     コート姿の楽次は手をこすりながら、事務所のドアを開ける。コートの中に入っている、暖かいペットボトルを持ち手を温めて、またポケットにしまう。楽次は社長室のドアをノックする。

楽 次「社長。音光です。帰社しました。」

谷 口「おお、楽次か。入れ。」

楽 次「失礼します。」

     楽次が鞄を開けて契約書を取り出し谷口に提出する。

 谷 口「今日は冷えるな。」

 楽 次「もう新年迎えましたからね。」

 谷 口「で、どうだ、音楽営業の方は? 」

楽 次「今週はアーチスト契約新規5件です。」

谷 口「これで累計は40件か。今が一番、厳しい時だ。頑張ってくれ。」

楽 次「社長、そのことなんですが、もう4カ月目に入りましたよね。そろそろ、そろそろIT派遣終わって、音楽営業1

    本でいかしていただきたいのですが。」

谷 口「先月の動画販売の売り上げはいくら?」

楽 次「5500円です。」

谷 口「それではまだお前の分の給料がでない。5万だ。目標。あと1カ月の我慢。」

楽 次「話が違うなあ。」

谷 口「もう少しだ。商品を今の倍にして。」

楽 次「頑張るんで、来月必ずお願いします。」

 谷 口「ああ、わかった。」

    楽次は社長室を出る。

 

 〇事務所外(昼間)

    楽次はユンケルを飲む。溜息をつく。

〇ライブハウスバー(深夜・都内)

    数人のお客がバーカウンターで、リキュールを

    作り、お客様に提供している。狭い会場に十人

    ほどのお客様がテーブルにお酒を置いて椅子に

    座っている。楽次は一番前の席を陣取り、座る。

    楽次はタブレットを用意し、動画を撮る用意を

    する。契約アーチスト、レン(34)がライブ

    の用意を始める。

レ ン「楽次さん、本来はね、そんな家庭用タブレットじゃなくて、YOUTUBERが撮るような高品質で編集もばしばしやらないと売れないっすよ。」

楽 次「そうなんですけど、1カ月で商品を倍にしないと、自分がぶっ倒れてしまう。商品は入れ替え可能なので取りあえず、商品ください。」

レ ン「んー。本来はあまり高品質ではないものを商品にしたくないが、とりあえずはいいとしよう。」

楽 次「宜しくお願いいたします。」

    

 〇ステージ(深夜・都内)

    レンがライブをする。楽次は撮る。時計は10時を指して

    いる。

 

〇ライブハウスバー(深夜・都内)

    レンを含むアーチストが団欒をしている。時計は11時

    25分を指している。お客様が一人退出する。楽次が、

    時計を見て、溜息をつく。

楽 次「今日の収穫は商品3本か。」

レ ン「そんなに焦らなくたってもう音楽1本でじっくりやればいいじゃん。飲むか? 

    楽次は軽く手を挙げて、断る。

楽 次「それは社長にいったけど、もう少し売上立ってからと言われて。」

    横で話を聞いてきた、契約アーチスト、タク(32)が

    ビールを一気飲みし、楽次にピーナッツの皿を渡す。

    楽次はピーナツを口にする。

タ ク「あのさあーそれおかしくね?楽次さんだってこの時間遊んでいる訳じゃないんだからさ。やめちゃえば?IT派遣なんてもっといい条件のところあるよ。」

楽 次「いや、そもそもIT派遣そのものには興味ない。俺の夢

    ファンビジネス、平松愛理を筆頭にファンを盛り上げる

    ビジネスをやりたいんだ。それが実現できると社長はい

    っていた。その夢なくしてこの仕事は出来ない。」

レ ン「じゃあさ、楽次の為に、ひとはだ脱いでやるよ。終電で帰るのやめてさ、カラオケ屋行ってさ、コンテンツ3

    本作ってやるよ。別に歌わなくてもいいんだろ?俺のファンが喜んで買えばいいんだろ? 卓どう? 」

タ ク「ああ、いいね。俺も3本、あわせて6本、いやそれ入れたら9本。」

楽 次「なるほど、9本、それは助かる。」

レ ン「じゃあいくか。」

楽 次「宜しくお願いします。」

    

 〇カラオケ屋の室内(深夜)

    時計の針は11時50分を指している。楽次はポケットか

    らユンケル取り出し、飲む。3人は椅子に座る。

レ ン「じゃあ、どうするかな。どうせだから普段やらないネタがいいな。」

タ ク「じゃあ、レン。不屈サンライズのエピソードなんかどうだ? あれ、誕生秘話知っている奴いないだろ。動画、

     俺撮ってやるよ。楽次それでいいか?」

楽 次「ありがとうございます。」

タ ク「じゃあ、撮るぞ、レン」

レ ン「よし。」

   タクはアイフォン撮り始める。

レ ン「皆さん、こんばんは。レンです。今回ね、まだ1度もライブのMCで話したことない不屈のサンライズという曲の

    誕生秘話をお話したいと思います。」

    

 〇カラオケのレジ(朝)

    楽次は会計している。会計の横の壁の時計は6時45分を

    指している。

 店 員「ではおつりは200円です。」

 楽 次「ありがとう。」

    楽次はお釣りを受け取る。

 レ ン「何? 経費で落ちないの? 念のため、領収書もらって

    おきなよ。」

 楽 次「そうだね、忘れてた。領収書ください。」

 店 員「かしこまりました。」

    店員が領収書を渡す。

 店 員「ありがとうございました。」

    楽次は二人の方に向く。

 楽 次「ありがとうございます。これで7本。」

 タ ク「平松さんとともに、俺たちを有名にしてくれよ。」

 楽 次「はい。必ず。」

 

〇楽次の家(夕方)「発病」

   《ここから楽次が発病する為、直るまで、楽次が聴いた

    もの見たものをベースに表現されます。標準の流れと

    楽次の流れを統合して表現いたします》

時計は16時5分を指している。

   楽次は布団からもぞもぞ起き出す。

楽 次「耳鳴りがして眠れてない。もう行かないと。これでは寝てないと同じ。」

   楽次はワイシャツを着て、バッグを持って外に出る。

 

 〇バス停留所前(夕方)

    楽次はバスの停留所前で乗車待ちの列に並ぶ。黒いコート

    を着た男が楽次の後ろに着く。表情は笑っている。スマホ

    を持ち話始める。

人「今日は休んだ方がいいんじゃないか? 寝てないんでしょ? 無理すんなよ。」

    楽次はびくっとして後ろを見て、その男を見つめる。

楽 次「電話か。」

人「無理すると体壊すよ。今日は欠勤してもいいんだぞ。いくの? あ、そう。じゃあ頑張って。」

   人が楽次に向かいにやりとする。楽次は瞳をそらす。

   

 〇IT派遣場 (夜)

    室内は工事中で通路に配線がたくさん引かれている。ドア

    に張り紙がある。「今晩16時から翌朝6時まで配線工事

    の為、ドアは明けたままにしてあります」と書いてある。

    楽次はそれを読んで一旦とりだしたカードをしまう。楽次

    は入室する。翔太と次郎は基本ニタニタしている。

次 郎「お、楽次、きたのか? 無理しない方がいいよ。俺、昨日、カラオケで朝まで歌ってそのまま出勤したからもうふらふら。辛かった。早く帰って寝よう。」

楽 次「・・・お疲れさま。」

翔 太「楽次、疲れているな。甘いもの買ってきたぞ。今日はつらい夜になる。これ食べて。俺の仕事はこれで終わり。」

    翔太は、お茶碗の大きさのプリンを楽次の机に置く。

    楽次はそれを見て椅子に座る。

 楽 次「ありがとう。」

次 郎「え? 今来たばかりなのに仕事終わりだって?」

翔 太「疲れちゃってさ。お休み。音楽でも聴いてるよ。」

次 郎「仕事放棄っすよ。」

楽 次「(小声)まさか俺が昨日徹夜したことを知っているのか? まさかな。」

    楽次はパソコンを立ち上げる。

翔 太「まあ無理は禁物。楽次今日農工は俺がやるよ。緊急対応やっててよ。」

楽 次「はい。」

   楽次は鞄から筆記用具を出す。

次 郎「では、時間ですので引き継ぎはじめます。今日、重要案件引継ぎおとといの。楽次ちゃんと読んどいて。     

     わからないだろうなあ。」

    次郎は楽次ににやりと笑う。

楽 次「・・・大丈夫です」

次 郎「俺なんか耐えられないけどなあ。無給でやる仕事。じゃあ。また。」

楽 次「お疲れさまでした。」

    パソコンの画面を見る。目をぱちぱちやる。電話が鳴る。

翔 太「楽次。電話。英語担当コールだろ」

楽 次「はい」

   楽次は電話に出る。

楽 次「ハロー」

   電話は音楽が流れている。

楽 次「え? ハロー?」

   電話は音楽が流れている。荷物をまとめていた次郎が気づく。

次 郎「あ。英語がわからない? どうした。楽次変われ。」

   楽次は保留を押す。次郎が話す。次郎が楽次にウインクする。

次 郎「ハロー。あーはーオーライ。バイ」

   次郎は電話を切る。次郎はにやりと笑う。

次 郎「技術員作業終了。書いといて、BK会社の件。英語できなくなったの? 疲れているんだろ? じゃあな。」

楽 次「・・ありがとうございました。何かおかしい。」

声「おかしいのはお前の頭だよ!」

楽 次「え?」

   楽次は辺りを見回す。

翔 太「またはじまった。隣の部署の奴。あんなにお客様にがなり立ててよく首にならねえなあ。」

楽 次「・・そうだよな。怖い。」

声「ああ? おかしなこといってんじゃねえよ。中途半端なことやってんじゃねーよ。どちらもダメになるぞ。」

楽 次「・・・まさかな。」

声「仕事は仕事。その時間になったら集中する! できないならやめちまえ!」

楽 次「おかしい。俺のこといってるのか。」

翔 太「何? 楽次? 隣は無視。気にしない。メール来てるぞ。お前の案件。」

楽 次「ああ、すみません」

   茂はメールを読む。

楽 次「(小声)技術員派遣。音楽を聞きながら、仕事をやったことを理由に解雇。あなたも気をつけるように。なんだこれ。くそ。」

声「もうやめたらええねん。そやったら」

楽 次「・・これは何だ? もう辞めろということか?」

翔 太「楽次? 何ぶつぶつ言ってんの? 顔色がないぞ。」

   楽次はパソコンの画面を見る。仕事履歴プログラムを見る。

楽 次「あれ? この件、もうクローズになったんだ。何? もうめんどくさいからクローズ? そんなのありか?」

   楽次はパソコンを操作してクローズされた案件を対応中に戻す。

翔 太「何だ? 俺のクローズしたやつ、対応中に戻ってるぞ! 何?」

声「今日は寒いから気をつけて帰れよ。お大事に。そのままやめたらええ。怒れ、怒ったらええ。」

楽 次「限界だ! もういい!」

   楽次は立ち上がる。

翔 太「どうした楽次?さっきから何?」

   翔太はにやりとして、親指たてて、外へというサインをお

   くる。

楽 次「もういい! やめる!」

翔 太「どういうこと?」

   翔太は楽次のカードを自分の机に置くように、ジェスチャ  ーを送る。

声「今夜は工事だから入室の鍵はいらない」

   楽次は入室カードを技術員の傍に置く。

翔 太「おい!俺にカード渡してどうする」

  翔太は笑って楽次に向かって、親指を立てる。

楽 次「さよなら」

翔 太「おい!どうなんってんの?」

    翔太は立って、楽次に拍手する。楽次は部屋を出る。

 

 〇 ビル入り口

     楽次は早足で、ビルを退館する。入り口の時計は17時

     45分を指している。

楽次「お世話になりました」

受付「は?」

   受付の男は敬礼をして、ドアの方を指し、出るようにジェスチャーをする。楽次は退館する。

〇辰巳橋(夜)

   楽次が橋の上を歩いている。橋の通路にビール瓶が割れた

   ような破片がたくさん散らばっている。楽次はよけて歩く。

楽 次「俺に怒れというのか? 何に対して? 」

   楽次は前方にカップルがゆっくり歩いているのが見える。

   二人は一旦、楽次の方を向いてにやりとして、進行方向に

   向いて、楽次に聴こえるように会話する。

  男「くしゅん。風邪引いたみたいだ。早く帰って寝よう。」

  女「早く帰えらなきゃ。明日、休んじゃえば?」

  男「わかった。明日は早退しよう。」

  女「辞めときな。会社、首になるよ。」

  男「えー。明日会社休んでいいのに。早退したら首? 」

  女「当然じゃん。」

   楽次は2人を睨みながら、足早に彼らを追い越し歩く。

   続いて、警官が2人、反対方向から近づき、指を下にして

   楽次を睨みながら通り過ぎる。楽次は構わず歩く。

 

〇楽次の家(夜)

楽次は家に着きドアを開ける。愛理が玄関にくる。楽次の

表情はこわばっている。

愛 理「楽次? 今日、夜勤じゃなかったの?」

楽 次「辞めてきた。」

愛 理「辞めて・・ちょっとどういうこと?」

楽 次「静かにしてくれないか? 寝たい、寝たいんだ。」

   楽次は自分の部屋へ行き布団に倒れこむ。柚月はシュークリーム食べながら、楽次の部屋を見ている。

愛 理「お父さん、ちょっと疲れちゃったみたいね。柚月は気にせず、宿題やっちゃいなさい。」

柚 月「・・わかった。」

    柚月はゆっくり自分の部屋へ行く。

〇楽次の家(朝)

   楽次が布団で寝ている。電話が鳴る。楽次はよろよろ起きて電話に出る。

楽 次「はい。」

谷 口「はい、じゃねーよ。お前、昨日派遣先で仕事放棄して帰ったそうじゃないか。」

楽 次「えーと、誰ですか?」

谷 口「寝ぼけているのか? 谷口だ。」

楽 次「あ、はい。疲れていて。」

谷 口「今日、今すぐこちらに来い。派遣先からクレームが出ているんだ。職場放棄する前に、相談なり、急病で休むなり他の方法があったはずだ。」

楽 次「休めばよかった。」

谷 口「今更云ったって遅い。10時に来い。」

楽 次「はい。」

谷 口「必ず来い。いいな。」

楽 次「わかりました。」

   楽次は受話器を置く。時計は8時40分を指している。

楽 次「落ち着け。悪い夢見ただけだ。」

   楽次はリビングへ行く。置手紙がある。楽次が読む。手紙はこう書いてある。『今日は8時から仕事だから行くね。

15時に帰るから、そのあとお話。朝、カレ―作っておいたから食べて 愛理」

楽 次「疲れて、派遣がダメになったんだな。」

   楽次はカレーライスが盛ってある皿のラップをとり、食べる。ワイシャツを着て鞄を持って家を出る。

 

〇アイティシステム株式会社(冬・東京・昼間)

時計は9時55分を指している。楽次は社長室をノックする。

谷 口「誰?」

楽 次「音光です。」

谷 口「入れ!」

   楽次は入室する。谷口は親指を下にしている。

谷 口「お前は何をやっているんだ!」

楽 次「疲れがピークに達してしまって。」

谷 口「今、山田が謝りにいってすべて終わった。お前あそこがやっと安定してきたのに、辞め方が悪いから営業に迷惑かけんだぞ! あの会社にもううちの要員入ることできなくなったんだぞ!」

楽 次「すみません。寝ていなかったから。」

谷 口「結果がすべてだ。派遣契約は終わった。何が不満だ?」

楽 次「不満より疲れが。あ、音楽の契約書、提出します。10件のコンテンツ。と、領収書。」

   谷口がにやりとして提出物を社長机に粗く置く。

谷 口「・・どうしてやろうかな。」

楽 次「え?」

谷 口「いや、すまなかった。疲れが出てしまったんだな。」

楽 次「そうです。」

谷 口「ここで相談なんだが、音楽の会社お前は十分にやった。」

楽 次「そうですか?」

谷 口「お前、2つの仕事しながらいくつ曲を作った?」

楽 次「25曲ですが。」

谷 口「25曲か。お前を一旦休職扱いにする。」

   谷口はにやりとする。

楽 次「休職ですか。え? 平松さん事務所面談どうなります?」

谷 口「それはこちらで進めておく。心配するな。それより君は、休職だ。お前が休職している間に、音楽会社を完璧なものにしておく。しかし、宿題がある。」

楽 次「休職ってお金は出るんですか?生活が。つまり首ですか? 首は勘弁してください。」

谷 口「休職だ。首ではない。一旦、休むということだ。お金は末日にわしのポケットマネーから出すから安心せい。」

   谷口は笑ってお金を差し出すジェスチャーする。

楽 次「お金は出るんですね? でも休職と」

谷 口「そうだ。ただし宿題がある。君のやっている、平松愛理

   ファンサイトを1流のサイトにしておきなさい。」

 楽 次「1流ですか?」

谷 口「誰がどうみても、すごいと言われるようなサイトにしなさい。そうだな。君はコンテンツ作るの得意だから、それに集中をしなさい。デザインは爆発してからでもいい。」

   谷口はキーボードを打つマネをする。

楽 次「了解しました。爆発とは? 」

谷 口「いいことだ。それでいいな。じゃあ決まりだ。頑張るんだぞ。」

楽 次「はい。」

   谷口が受話器をもって内線を押す。

谷 口「ああ、わしだが、あとの処理宜しく。」

   谷口は受話器を置く。

谷 口「じゃあ、あとは永田さんの所いって。」

   谷口は親指を上にして喜んでいる。

楽 次「わかりました。なんで喜んでいるんですか?」

 谷 口「お前は本物だ。君が用意できたら、爆発させこの会社は東証1部上場。待っていなさい。宿題はやるんだぞ。」

 楽 次「わかりました。必ずやります。」  

楽次は社長室を出る。(1部完)

 

 〇楽次の家(夕方)2部

   愛理が玄関を開けて入ってくる。楽次がのぞき込む。

楽 次「愛理か。」

愛 理「今日はずっと休み?」

楽 次「いや、今日本社行ってきた。そして休職扱いになった。」

愛 理「休職? 」

楽 次「派遣はもう終わり。自宅でファンサイトしてくれということになった。」

愛 理「休職? ファンサイト? お金は?」

楽 次「社長が個人的に振り込むって。」

愛 理「自宅が職場?」

楽 次「そうなるね。」

   愛理は離職票が置いてあるのを見る。

愛 理「ファンサイトって何?趣味がお金になるとでもいうの?」

楽 次「実は言っててなかったが、社長が平松愛理のマネージャーと面談してて、自分も同席したんだけど、ちょっと前。

  社長が仕掛けてる。仕掛けを作って平松さんを大舞台にのせ

   る。その為に、一旦、休職して、ファンサイトに打ち込むこ

   とになった。」

 愛 理「そうなの。あ、そう。」

   愛理は笑顔で親指を立てて喜ぶ。

 愛 理「・・・どうしようか。」

 楽 次「どうするも何も、頑張るだけさ。」

 愛 理「ちょっと見てもらおうか」

    愛理はスマホをいじる。精神科、江東区と打つ、

    東陽町のメンタルクリニックが出る。愛理の表情は硬い。

 愛 理「・・決めた。見てもらうしかない。何でもないといいけ

    ど。一大事だし。・・よし。これから東陽町に行か

 ない? あたしもついていくから。」

楽 次「東陽町? どこに行く?」

愛 理「あなたが調子悪そうだから東陽町でみもらおうかなと。」

楽 次「寝れば大丈夫だよ。」

愛 理「いいことあるかもしれないよ。」

    愛理は冷蔵庫を指さす。

楽 次「え? なんで? 冷蔵庫? いい飯が食える。」

愛 理「4時に予約とる。」

   愛理は電話をする。

愛 理「本日、4時とかに見てもらうのは可能ですか?

   ・・はい。ありがとうございます。では伺います」

   愛理は電話を切る。

楽 次「じゃあでようか。」

   二人はそのまま玄関を出る。

 

 〇東陽町メンタルクリニック(夕方)

楽次は扉を押す。待合室になっている。二人は入室する。

楽 次「ここは何? メンタルって」

愛 理「別に驚かなくていいわ。今精神科はたくさんあるし、通っている人も多いし。」

広 子「音光楽次さん。どうぞ」

愛 理「時間予約しといた。いくよ。」

   

 〇診察室

田中恵子(66)が大きな机に座り書き物をしている。

恵 子「どうぞおかけください。楽次さんはこちらの席。あなたは後ろの席におかけください。」

   二人はそれぞれ席につく。

楽 次「先生か。」

恵 子「あなたが先生よ。」

楽 次「え?」

恵 子「お目にかかれて光栄だわ。」

   恵子はメガネを一度外して嬉し涙を流す。またかける。

愛 子「失礼いたしました。」

楽 次「光栄? 泣いちゃうほど? そうなんだ。」

恵 子「今日はどうしました?」

楽 次「過労で寝てなくて派遣がダメになってもうひとつも休職扱いに。」

恵 子「そーう。よかったじゃない?!」

楽 次「え?」

恵 子「これからは自分の好きなことに打ちこめるわね。」

楽 次「いや、確かに社長にファンサイトを1流にしろと云われたけど。」

恵 子「好きなだけ作ればいいのよ。」

楽 次「でも休職だからお金がいつまで出るか心配で。」

恵 子「楽次さん心配ないわよ。あなたは働かなくてもいいの。」

楽 次「え? なんで?」

   恵子は指を口に当てるジェスチャーをする。

恵 子「それは私の口から云えないけど、あなは好きなことだけやってればいいの。」

楽 次「働かないとお金が。」

恵 子「お金の心配はないわ。じきにわかるわ。それより好きなこといっぱいやって注目を集めなさい。いや、目上の方には失礼ないい方ね。好きなことやってくださいませ。」

楽 次「何か、秘密があるんだな。目上の方って何だ?」 

恵 子「今日はお会いできて嬉しかったわ。サイン書いてくださる?」

楽 次「サイン?自分芸能人じゃないですよ。」

恵 子「芸能人ごときにサインはいただきませんよ。」

楽 次「なんだ? それよりいいのか?」

   恵子は紙とボールペンを用意する。楽次はサインをする。

楽 次「サインを書いたことなどないんだけどな。」

恵 子「ありがとうございます。家宝にいたしますわ。さあちょっと血液検査するわね。この部屋を出てすぐ右の部屋で採血よ。」

楽 次「私の血は高いですよ?」

恵 子「輸血していただきたいくらいですわ。では、斎藤さんお願い。」

広 子「陛下。採血いたしますか。」

楽 次「うむ。」

   楽次は採血部屋へ移る。

愛 理「私の血は高いですよ? 何ですか?」

恵 子「では、ご親族の方、前へどうぞ。」

   愛理は前の椅子に座る。不安そうな表情をしている。

恵 子「楽次さんは恐らく、総合失調症にかかっています。詳しい検査、エスジーアイの検査が必要ですが、まず間違いないでしょう。」

愛 理「どんな病気ですか?」

恵 子「私は普通の会話しただけですけど。」

愛 理「たまにかみ合ってない。」

恵 子「私の話した内容と、息子さんが聴いた会話が大きく異なります。」

愛 理「どういうことですか?」

恵 子「幻聴、幻覚が現実を支配する病気です。聴いたことが、全く違う言葉で聞こえます。また通常見えていないものが見えたりします。」

愛 理「それはすぐに治るものなんですか?」

恵 子「完全に治ることはありません。また、再発する恐れがあります。昔は精神分裂病と言われていました。表現が聞こえがわるいので現在の名前になってますが。」

愛 理「なぜ楽次が。」

恵 子「今、仕事のストレスで精神の病気にかかる人は多いんですよ。このサインを見てください。私は署名と云いました。これは野球選手のようなサインですよね。」

愛 理「書いたこともないのに。どこからこの

    サイン出てきたんだろう。」

恵 子「咄嗟に書いたものでしょう。同じものは書けないでしょう。」

愛 理「どうしたらいいですか?」

恵 子「安定剤と、幻聴、幻覚を抑える薬があります。それを飲んでいただきます。安定剤は心地よい眠りにつくことで、不安などを取り除くことができます。必ず飲ませてください。飲ませないと大変なことになります。」

愛 理「大変なこととは?」

恵 子「この病気の特徴は監視されてると思いこんでしまうことです。何かいつも監視されて脅迫観念にかられ、やむなく暴力をふるっただの犯罪を犯す可能性もあります。」

愛 理「大変だわ。どうすればいい方向に向かえますか?」

恵 子「彼はファンサイトとかいってたけど、何ですか?」

愛 理「音楽会社としても働いていたので音楽作ります。ファンサイトも17年やっていてそれが彼の誇りです。」

恵 子「しばらく好きな事をやらせてあげてください。ストレスを軽減することはできます。ただ、直接直ることはないです。」

愛 理「私のせいだ。転職を勧めたから。先生、好きなことやらせればいいんですね?」

恵 子「何か理由があるはずです。それがわかればだんだん現実に戻ってきます。」

    愛理はハンカチで涙を拭く。

恵 子「そんなに悲観することはありません。幻聴、幻覚にさせてる理由が彼の中で解決すれば戻ってくるケースもあります。必ずとは言えないですが。」

愛 理「わかりました。」

恵 子「ではお薬だしますので、待合室でお待ちください。」

   愛理は待合室に戻る。楽次は採血した場所を手で押さえている。愛理は泣いている。

楽 次「何泣いている。俺がついていれば何も怖いものはない。」

愛 理「なんでもない。」

   時計が16時25分を指している。看護婦が近くを通る。

広 子「音光さん。」

愛 理「はい。」

   愛理は受付の所へ行く。愛理は薬をもらい代金を払う。

   楽次が近づく。にこにこしている。

愛 理「帰るよ。」

   二人は部屋を出る。

 

〇楽次の家(夕方)

愛理は玄関を開ける。楽次は自分の部屋にいく。

楽 次「ちょっと調べものあるから。」

愛 理「わかったわ。」

   愛理は居間に行きスマホをいじる。統合失調症を検索する。愛理は読む。家の電話が鳴る。愛理が出る。

声「YAMAHA葛西教室の中条です。」

愛 理「あ、はい、愛理です。」

声「愛理さん、ごめんなさい。田中先生が体調不良で早退したいというんだけど、18時のピアノ出てもらうことは可能?」

愛 理「あ、そうなんだ。大丈夫よ。すぐ向かうわ。」

声「すみません。宜しくお願いします。」

    愛理は受話器を置く。愛理は冷蔵庫からハンバーグを取り出しレンジに入れる。柚月が玄関を開ける。

柚 月「只今。」

愛 理「柚月。悪いんだけど、今日、急な仕事が入ったから柚月はLEEとか食べててくれる? ハンバーグはお父さんの。」

柚 月「わかった。ドーナツ食べたからちょうど良かった。LEEでなんとかなる。」

愛 理「柚月は少し食べ物控えなさい」

柚 月「はあい。今日、お父さんいるの?鞄おいてあるけど。」

愛 理「そう。なんか仕事あるからそっとしてあげててね。」

柚 月「そうなんだ」

    レンジが鳴る。愛理が取り出す。愛理が楽次の部屋へ行く。

愛 理「何してるの?」

楽 次「天皇家の家系図を見ているのさ。」

愛 理「天皇家、今まで興味あったっけ?」

楽 次「なかったけど、関係あるならばね。」

愛 理「関係?」

楽 次「しかしどこを探しても情報がないな。」

愛 理「なんの情報?」

楽 次「俺との関連性さ。」

愛 理「あるわけないじゃない。」

楽 次「ええ?」

愛 理「情報が出ていないから特別なのよ。最初から有名だったら爆発はしないわ。」

   愛理はにやりとする。

楽 次「なるほど。」

愛 理「これから有名になるから隠しておかないとね。だから載っているわけないのよ。」

楽 次「なるほど、だからツイッター見ても、これを見ても情報がないんだな。もう秘密握っている奴いるかな?」

愛 理「さあ、どうかしら。私、急に仕事はいったから、ハンバーグ温めておいたから。」

楽 次「お祝いのハンバーグだな。」

愛 理「・・・柚月と食べてて。あたし行ってくるから。」

楽 次「頼んだぞ。」

愛 理「じゃ、行ってくるね。」

    愛理は居間に行く。頭を抱えて苦悩の表情をする。

愛 理「じゃ、宜しくね。」

柚 月「いってらっしゃい。」

愛理は急いで荷物をもって家を出る。柚月はLEEを取り出し、皿に開けて、レンジに入れる。柚月は愛理のスマホ

    を見つける。

柚 月「あ、お母さん、忘れてるじゃん」

    柚月はスマホもって愛理を追いかけようとする。

柚 月「ま、いっか。ん?」

    柚月は愛理のスマホを見る。統合失調症の画面が出る。柚月は眺める。楽次が居間に現れる。

楽 次「おお、柚月か。」

    柚月は愛理の携帯を咄嗟に隠す。楽次は冷蔵庫からゴマダレを出す。

楽 次「今日はお祝いだ。さて、食べるか。」

    レンジが鳴る。

楽 次「お、レンジがなったぞ。柚月は食べないのか?」

柚 月「・・あたしはいいや。」

    柚月は少しの間、楽次を見つめてゆっくり自分の部屋へ行く。そして愛理のスマホを見る。

 

  〇楽次の家(夕方)

    愛理は通帳を眺める。通帳には97万と記載してある。

愛 理「・・・しょうがない。」

    柚月が玄関に入ってくる。愛理はあわてて、通帳を隠す。

柚 月「只今。」

愛 理「おかえり。柚月、コンビニでなんか食べてるんでしょ。」

柚 月「あたし、買い食いは辞めるよ。」

愛 理「なんで?」

柚 月「だいたい、今の状況わかった。公文も辞めていいよ。きついでしょ。」

愛 理「柚月・・」

    愛理は涙を流す。柚月は愛理の肩に寄りかかる。

柚 月「大丈夫。なんとかなるよ。」

愛 理「どうなるかわからない。家庭崩壊するかも。」

柚 月「大丈夫。こういう時家族で支えるしかない。」

愛 理「生活だって、このままでは1年と持たないわ」

柚 月「あたし、ウエブでいろいろ調べた。家庭環境

   は大きな回復の要素になっているみたい。だから

   お母さんにお願い。お父さんの好きなファンサイト

   をある一定の期間やらせてあげて。」

愛 理「確かに社長からはファンサイトを1流のサイトに

   しなさい。といってたけど。」

柚 月「お父さんにとってストレスのない世界を持たせて

    あげるの」

愛 理「その方がいいかな? でもあまり時間もないのよ。

    生活があるんだから。」

柚 月「いざとなれば、あたしも働く。」

愛 理「それはできるだけ避けたい。あなたの年じゃ怪しい

   バイトしかない!」

柚 月「お父さんを助けたいの」

愛 理「それは私も同じ」

柚 月「半年ぐらい全力で趣味をやるの」

愛 理「それで直るなんてことはないのよ」

柚 月「あたしに案がある。さっき社長からはファンサイト

   1流にしてと言われたとお父さんいってたわね」

愛 理「でも、それは彼の病気でそう聞こえたからであって

   実際は首なのよ。あそこにあるのは離職票よ!」

   柚月は離職票を見る。テーブルの上にそれはある。

柚 月「離職票。ってつまり、仕事辞めた証だよね。」

愛 理「そうよ」

柚 月「でもお父さんはそう思っていない。だから、全力で半年

   1流のサイトにさせればいいのよ。そして、社長にライン

   なんかで、社長に知らせるの。1流になったことを。」

愛 理「でも社長はお父さんを受け入れることはできない」

柚 月「これは賭けかも。半年、いい精神状態でいさせて、なお

    社長に疑問を抱かせる。1流になったのに見向きもしな

    い社長に。そこに気づいたら、社会復帰のきっかけよ。」

愛 理「そんなにうまくいくはずが・・」

柚 月「やってみなきゃわからない。」

愛 理「あなた私よりしっかりしてる。」

柚 月「あたしはいつもいろんなことを考えてはそれを映像化す

   るのが夢なの。私を信じて。」

愛 理「柚月を信じるしかない。私の自慢の娘。」

柚 月「それから、ウエブを読んでてわかったけど、お父さんが思ったこと、感じたこと、やっていることを否定しないで、できるだけ受け入れてあげるの。そうすると解決の糸口になることはわかった。あたたかく接するといいらしいよ。」

愛 理「わかった。柚月を信じる。あたしのできることは、仕事

   を増やすことぐらい。じゃあ、シュークリームとLEEだけはなんとかする。」

柚 月「あたし自分で勉強するよ。高校も普通の高校でいい。」

愛 理「わかった。頑張ってお父さんを取り戻すよ。」

柚 月「大丈夫よ。あたし、お母さんにもお願いがあって。」

愛 理「何?」

柚 月「ネイルアート好きでしょ?あれは続けて欲しいの。癒されるっていってたじゃん。それと家族で日曜日は散歩。お父さんはちょっとの間夏休み。」

愛 理「わかったわ。柚月。」

柚 月「お父さんは?」

愛 理「自分の部屋にこもってファンサイトしてる。」

柚 月「ちょっと行ってきていい?」

愛 理「うん。」

    

 〇楽次の部屋の前

柚月は楽次の部屋をノックする。

楽 次「何かな?」

柚 月「お父さん、ちょっといい?」

楽 次「うむ。」

    柚月はドアを開ける。楽次はパソコンでMIDI制作をしている。短パン姿。

柚 月「すごいね。いい曲に仕上がってる?」

楽 次「ああ、平松愛理ボカロ今日2曲目だ。累計20曲だ。」

柚 月「すごいじゃん。さすが1流目指しているだけあるね。」

楽 次「そうさ、1流の仕事さ。柚月、1つ訊いてもいいか?」

柚 月「いいよ。」

楽 次「このサイト、何ができたら1流だと思う?」

柚 月「そのサイトで平松愛理の曲、全部機械音楽、機械声で

   きたら1流になると思うよ。」

楽 次「やはりそうか。目指すは平松ボカロ全曲制覇だ。」

柚 月「やった! 平松愛理ボカロ全曲制覇プロジェクト始動。」

楽 次「どのくらいでできるかな?」

柚 月「お父さんの腕もってすれば、3か月あれば余裕じゃん?」

楽 次「そうか! やってやる! 」

柚 月「社長をぎゃふんと言わせてやろうよ。あのさあーお願い      

    あるんだけど。」

楽 次「何かな?」

柚 月「今、お父さんはサイトしているけどさ、毎週日曜日は家族で散歩しない?」

楽 次「散歩? お、いいな。」

柚 月「私、お父さんに毎週、サイトネタ云う。」

〇楽次の家(昼間・2か月後)

    愛理はネイルアートをしている。柚月はシュークリームを食べる。

愛 理「そろそろ支度しようか。」

柚 月「うん。」

愛 理「お父さん、呼んできて。」

柚 月「わかった。」

    柚月は楽次の部屋へ行く。

柚 月「お父さん。散歩いこ。」

楽 次「うむ。」

柚 月「暑いから短パンTシャツでいいんじゃない?」

楽 次「そうだな。」

    

  〇親水公園(南葛西・昼)

     楽次は白いTシャツに黒の半ズボンで靴下はかずにスニ   ―カーサンダルでゆっくり目で歩く。柚木は青いスカー

     トを着て、板サンダルを履く。愛理は色違いのサンダル

     を履く。足にはピンクのネイルアートが見える。

     三人は池の傍にある散歩道を歩く。

愛 理「柚月。見て。池だ。あたし海とか好きなんだよなあ」

柚 月「海か。いいね。来週は葛西臨海公園行こうか? いいでしょ?お父さん。」

楽 次「うむ。いいだろう。」

柚 月「やった!」

愛 理「でも、この二カ月頑張ったね。」

楽 次「そうさ、頑張っているさ。」

愛 理「平松ボカロで100曲までいった。」

楽 次「夢中になると時間は関係なく力が湧いて創作できる。」

愛 理「すごいわ。これで爆発すれば。」

楽 次「でもまだ、半分だ。社長は1流といった。間に合うか?」

柚 月「間に合うよ。」

愛 理「そう、心配ないわよ。待ってくれるわ」

楽 次「うむ。」

愛 理「うむ、なんて、最近、いたについてきたじゃない?」

楽 次「それらしくしないとな。」

愛 理「そうね。」

   散歩中の人が敬礼やお辞儀をする。

楽 次「近隣はもう知っているんだな。」

愛 理「・・そうね。」

    近くを歩いている老夫婦が大きな声で話す。

老 男「もうそろそろだ。わかるな。」

老 女「わかるわよ。言わなくても。」

老 男「今日の夜9時だわかっているな。」

楽 次「え? もう? まだ100曲だけど。」

愛 理「ん、気にしないで歩きましょう。」

   時計の針は10時45分をさしている。近くではおじいさんたちが花びらをほうきではいている。

清掃人1「見てくれが悪いな。やっぱりそれなりにしないとな。」

清掃人2「けっ、昼間から楽でいいよな。スマホ教えろ。」

清掃人1「急がないと、外に出れなくなるからな。」

楽 次「皇族が嫌いな人もいるのかな。」

愛 理「そりゃいるでしょ。あまり口にしないだけで。」

楽 次「そうか、妬みか。俺に対する。」

愛 理「・・んん。いろんな重圧に勝たないとね。」

清掃人2「かっ!」

楽 次「今日9時か。今日、買い物十分してる?」

愛 理「1週間分はあるわ。昨日たくさん買ってきてくれたでしょ。」

楽 次「昨日と皆は云ってたからな。急いで買っておいたが。」

愛 理「まあ腐らしてもあれだし。」

柚 月「そうそう、今日の私のサイトネタ発表するね。」

楽 次「お、楽しみだな。」

   「王様」と書いてあるあTシャツを着た子供が楽次を見て

   笑ってかけていく。

 

 〇楽次の部屋(夜)

楽次は立ったり座ったり、落ち着かない。時計の針が9時を示す。

楽 次「何起きる? ヤフートップとかに載るのか?」

   楽次は更新ボタンを何度も押す。愛理が入ってくる。

愛 理「どうしたの?」

楽 次「爆発しない。」

愛 理「待っててくれているのよ。1流になるまで。明日も頑張ってね。お休み。」

楽 次「・・うむ。明日も頑張ろう。」

   柚月が楽次をのぞき込む。

柚 月「・・・お休み。」

愛 理「お休み。」

 

〇楽次の部屋(昼)

   楽次はノースリーブに短パン姿でパソコンをいじっている。音楽用ソフトをいじって操作している。

楽 次「よしいった。215曲に到達したぞ。ついにやったぞ。」

   愛理が部屋に入ってくる。スイカのカットしたものを皿にのっけて渡す。

愛 理「え? できたの? 215曲。」

楽 次「ついにやったぞ。300曲。」

愛 理「まさに有言実行ね。215曲できたのはすごいと思う。。」

楽 次「これで特別な人が作ったとなると、わしも皆に顔むけができる。」

柚 月「そうだね。今日も散歩に行こう。」

楽 次「うむ。」

   楽次はスイカをかぶりつく。そしてゴミになったすいかの皮を捨てる。

  

 〇団地前(昼)

     柚月と愛理はサンダルを履いてカランコロン音をたてて、歩いてる。愛理は帽子をかぶっている。楽次は、手にも

     っているペットボトルを口にもっていき、一気のみをする。陽はてかっている。

 柚 月「暑いね。でもいい散歩だったね。」

 楽 次「うむ。1流にふさわしい日だ。」

     老夫婦が団地前で買い物袋を持ちながら歩いている。

老 男「今度こそいいな? もう十分だな?」

楽 次「(小声)そうもう十分。」

老 男「サイトなんて誰でもできるんだよ。

    ようはいかに人が集まるサイト作れるかだ。」

楽 次「(小声)大丈夫、わしは冠ついてる。」

老 女「わかってるわよ。」

老 男「今日は暑いな。もう、涼しい所に隠れてひっそりしたいよ。」

老 女「扇風機にあたってればいいじゃない。」

老 男「今日は夜8時だ。わかっているな。早くそなえないと。」

楽 次「(小声)8時か。」

柚 月「どうしたの?」

楽 次「今まで、迷惑かけたね。そろそろととのったようだ。」

愛 理「まだ大丈夫よ。ゆっくり歩きましょう」

楽 次「達成感はある。」

   三人はエレベータに乗る。半そで短パンの男がいる。

若い男「見てくれも大事。この格好じゃな。」

   子供のTシャツは有名人と書いてある。。エレベータが10階につく。若い男が楽次の方を見て笑い、走る。楽次は見てない振りをする。

楽 次「ある意味タフになった。」

愛 理「そうね。」

楽 次「神経が強くなった。」

柚 月「さすがお父さん。」

楽 次「もう何が起きてもおたおたしない」

愛 理「それでこそ、私の夫。」

楽 次「時が来たようだ8時か。」

愛 理「今日はおいしいの作るね。215曲も達成したし。」

楽 次「うむ。おいしいの頼むぞ。

 

〇楽次の家・居間(夜)

三人は食事をしている。楽次は焼肉

   を頬張る。愛理、柚月は笑っている。

愛 理「おいしい?」

楽 次「うむ、おいしいぞ。余は満足じゃ。」

   時計は8時5分を指している。

楽 次「あ、いやまて。もう8時を回ったぞ。」

柚 月「どうかした?」

楽 次「8時じゃないのか。」

愛 理「ああ、いつぞや社長がいってたこと?」

楽 次「そうせっかく215曲達成したのに。」

愛 理「もたついているんじゃないの? 1流になって

    いることに気づいてないんじゃないの? 平松さんに親交

る岡村孝子さんのサイトがんがんやればいんじゃない?」

楽 次「情けない奴だな。わしを待っていると思ったらもたついているだと?」

愛 理「いつきてもいいように、どんどん増せばいいじゃない?」

楽 次「そうだな。今日社長にラインしよう。」

柚 月「はい。提案。もう作品をもう全部ユーチュ―ブに投稿したらどう?ユーチューブで投稿。 あたし手伝うよ。」

愛 理「それいいんじゃない?」

楽 次「ええ? それじゃ中身知られてしまうではないか。やばくないか?」

柚 月「何がやばい?別に悪いことする訳でもないし。私、夏休みだから、明日から撮影とかするよ。」

楽 次「爆発する前に徐々に地味に知られていくではないか。」

愛 理「公開していてもすぐ知られることはな

 いわ。一般人なんだから。」

楽 次「そうだな今は一般人だ。アップしよう。柚月、頼むな。」

愛 理「あたし、家事やって寝るね。また明日頑張って。」

楽 次「おいしい料理感謝する。食べ終わったら早速、アップするとするか。」 

柚 月「ようし、今日から1週間かけて、大量

YOUTUBEにアップします。代わりばんこで作業しよう」 

楽 次「おお、頼もしいな。宜しくな。」

 

 〇楽次の家(昼)

デジタルの時計は7月15日土曜日28.5

   度14時05分を示している。柚月は楽次が作った平松ボカ

   ロのアップ作業を行っている。楽次は布団で休憩している。

柚 月「よし。これで全曲アップできた。」

愛 理「やったね。」

楽 次「愛理、だが社長からLINEの返事ない。」

愛 理「ほんと、社長は何をやっているのかしらね。実は、何もやってないんじゃないの」

楽 次「そんなはずはない。」

   柚月が、愛理に向かってガッツポーズを送る。

愛 理「でも失業保険もらった後、収入ないし何よりも、社長、お金振り込んでいない。」

楽 次「そうだな。しかし、わし自体の存在で懸命になるはずなのに。」

愛 理「社長、実力ないんじゃない?もうあなただけで成功するしかないわね。」

楽 次「そうだな。俺が本気だせば。」

愛 理「頑張ってきたものね。一般人なのに。」

楽 次「・・一般人。」

   愛理ははっとして楽次を見つめる。

愛 理「・・そう! 成功するまで一般人。」

楽 次「そうだよな。皇室の人間じゃない限り、一般人だよな。」

   愛理は嬉しい表情をする。柚月はガッツポーズをする。

愛 理「そうそう薬切れそうだったよね。また東陽町行かない?」

楽 次「そもそもこの薬はなんだ?」

愛 理「栄養剤よ。頑張るための。」

楽 次「そうか。でもあの人好きじゃないんだよな。最初、サイン求めてきたのに最近は、なんか偉そうなんだよな。」

愛 理「でも応援してくれてるはずよ。行きましょう。」

楽 次「愛理がいうなら仕方ない。」

柚 月「私はデータのバックアップしとく。」

楽 次「ありがとな。感謝する。」  

 

 〇東陽町メンタルクリニック(夕方)

    二人は待合室で座っている。静かな、クラシックが流れている。

 愛 理「いい結果でてますように。どうか。どうか。もう半年

     経ってしまった。」

広 子「音光楽次さんどうぞ。」

   楽次は立ち、診察室に入る。

 〇診察室

  恵子はボールペンをくるくる回している。楽次が入室する。

恵 子「いらっしゃい。調子はどうですか。」

楽 次「調子は悪くない。平松ボカロ215曲になった。ちょう

    ど今日、娘と共同してYOUTUBEにアップし終わったところだ。」

恵 子「すごいじゃない。」

楽 次「いうことはそれだけか?」

恵 子「平松さんという人は喜びそうね。それだけやれば。」」

楽 次「喜ぶ? その先に成功がある。それだけ信じてや

ってきた。確実に爆発したいんだ。」

恵 子「今、音楽難しい。ファンサイトも時代ではないし。」

楽 次「以前、わしに特別な存在といったじゃないか。なんで態度を変える? 妬みか。」

恵 子「ああ、そうでしたね。努力すれば、いつか報われるわね」楽 次「わからないな。あんたわしの何知ってるわしは冠ない状

   態で十分努力したさ。」

恵 子「はい、そうですね。では2週間分また出しておきますね。よく寝れますか。」

楽 次「タフになったからよく寝れる。」

恵 子「また来てくださいね。」

   楽次は不機嫌そうに立ち部屋を出る。声

声「音光愛理さんどうぞ。」

   愛理が入室する。

恵 子「奥さん、お座りください。」

愛 理「どうですか?」

恵 子「好きなこと十二分にやらしたことが好転したようね。この病気はストレスも原因の1つでもあるからそれが改善されてます。暗示も溶け始めています。ただ働ける状態

    になるかはわかりません。」

愛 理「やっと自分が一般人であることを認識できたようです。」

恵 子「彼の作った成果物は正常ですか?」

愛 理「夫の実行力はすごいと思います。」

恵 子「芸能人も異常を訴える人が多いです。才能もある意味、障害を生みます。少し、薬を変えますね。ただ、悪くなったら、すぐ連絡ください。」

愛 理「わかりました。ありがとうございます」

   愛理は部屋を出る。

楽 次「あいつはやっぱり腹が立つ。」

愛 理「そうだね。」

   愛理が会計をすまして、2人は医院を  

   出る。

 

 〇駅前の東京メトロ階段口地上

    愛理は柚月に電話する。

 柚 月「どうだった? 」

 愛 理「改善されているって。」

 柚 月「やったね。お母さん。でもここからが勝負よ。」

 愛 理「わかっているわ。お父さんに仕事を勧めてみる。」

 柚 月「ここまでは予定通り。問題はこの先。」

 愛 理「あ、お父さん、戻ってきた。切るね。」

    愛理はスマホをいじる。楽次がパン屋の袋もって

    愛理に近づく。

 楽 次「いや、ごめん。おいしそうなパン屋があったから、

    買ってみたんだ。帰ったら三人で食べよう。」

2人は階段を降りる。

愛 理「あのね。」

楽 次「ん?」

愛 理「あの社長の事は忘れて、普通に働いてみない?」

    愛理は親指を挙げてジェスチャーをする。

楽 次「そうだな。俺は核の部分は作った。あとは待つだけ。それまで働くことにするよ。」

愛 理「ありがとう。楽しい6カ月だったね。必ずこの実績は育つよ。」

楽 次「そうだね。ありがとう。成功するまで、俺は一般人だからね。迷惑かけた。」

 

〇清掃会社(朝)

   管理者、和夫(55)が楽次が来るのを見て溜息をつく。

和 夫「なんだ。来たのか。もう懲りたと思ったのに。」

楽 次「頑張ります。」

和 夫「けっ。まあいい。まだ誰も来てないが教えてやる。明日は大宮なので、朝8時に大宮駅3番出口で集合。遅れたらおいていきます。時間ないので。」

楽 次「はい。」

和 夫「ふふふ、楽次君。明日の件、地図がわからないだろう。私のパソコンにエキスパートの画面が出ているので見て見な。」

楽 次「はい」

   楽次は管理者のパソコンへ向かい見る。

   画面上の大宮の時間は9時3分になっ

   ている。

楽 次「部長。」

和 夫「何だ。」

楽 次「俺、ここ辞めます。」

和 夫「そうかそうか、2日分の給料でないがいいな? まあ2日助かったよ。じゃあこのまま着替えて帰っていいよ。」

楽 次「ありがとうございました。」

    和夫は嬉しそうに、指を上の方を指す。それを見て

    楽次はうっすら涙を浮かべる。

〇楽次の家(昼)

楽次が玄関を開ける。愛理が調理をしている。

楽 次「仕事、辞めてきた。」

愛 理「そう。」

楽 次「何もかもあべこべで、昨日はワックスぬっているところに管理者が歩いて、さらに汚くなってるし、明日は8時集合といいながら、管理者のパソコンには9時になっているし。」

愛 理「嫌がらせじゃないの。辞めて正解よ。あのさ、8月18

    日にさ、平松さんのファンミーティングあるよ。

    気分転換にいってみれば? 」

楽 次「こんな状態でもいっていいのか?」

愛 理「一回、いい気分になった方がいいよ」

楽 次「ありがとう。」

 

 〇原宿ZIP ZAP

    店の外側から、平松とZIP ZAPコラボ企画と書いて

    あるのが見れる。

 

 〇店内・平松ライブ中(史実・2017・8・18)

    段が2段登ったところに、キーボードが設置されている。

    そこに平松が座って話している。楽次は段が降りている

    最前列のテーブルに座っている。

平 松「えと、んと、まじで時間ないな。部屋とYシャツと私は

    いる? 」

    店内からパラパラ拍手が起こる。

平 松「あ、歌うのね。でもいいや。歌っちゃおう」

    平松は「旅」を歌う。楽次は曲の間中、号泣している。

    平松は楽次のその姿にちょっと戸惑いつつも平然と歌い

    きる。

〇楽次の家(夕方)

   楽次は玄関を開ける。暗い表情である。

   居間に移ると愛理が書き物をしている。

愛 理「おかえり。どうだった? ファンミーティング」

楽 次「泣いてしまったよ。旅という曲に思わず。

    俺は社会復帰できるのだろうか。ずっとそれを

    考えていた。」

愛 理「大丈夫よ。いいのを見つけたわ。基金訓練、授業受けて勉強して月12万もらえるの。」

楽 次「そんな都合のいい話あるの?」

    愛理はチラシを見せる。

愛 理「ほら、あなたはデスクワークの方が向いていると思うの。勉強して好機狙うの。」

楽 次「6カ月コース、月12万、よしやる。」

愛 理「今まで不規則な時間で動いていたから規則的な生活すれば体ならしにいいよ。」

楽 次「規則正しい生活。それで直るかな。」

愛 理「大丈夫、あなたならできる。」

楽 次「よし、愛理、ありがとう。」

 

〇5カ月後 楽次の家(夕方)

楽次は玄関を開けて居間に入る。

愛 理「おかえり。なんか社長から電話あったわよ。今更? でも電話してみたら?」

楽 次「ああ、俺、社長にLINEしたんだ。今までのことを全部書いて謝罪したんだ。この一年からサヨナラするために。ありがとう。かけてみるよ。」

愛 理「携帯にかけてといってたわ。」

楽 次「わかった。」

   楽次はスマホで社長に電話する。

谷 口「おお、楽次か。元気か。」

楽 次「社長、まさか電話いただけるとは。」

谷 口「LINE見たぞ。お前、病気は治ったんだな?」

楽 次「今は大丈夫です。ご迷惑かけました。」

谷 口「お前、今、基金訓練受けているのか?」

楽 次「そうです。あと1カ月で終了です。」

谷 口「そうか、音楽ではないが、派遣で昼間の仕事があるが

    またうちでやってみないか?」

楽 次「え? また雇っていただけるんですか?」

谷 口「人生はな。3アウトでチェンジだ。お前はまだ1アウトじゃないか。頑張れ。とりあえず。飲もうじゃないか。金曜の夜はあいてるか。」

楽 次「空いてます。」

谷 口「金曜、午後7時、事務所にきなさい。」

楽 次「はい。」

谷 口「待ってるぞ。」

楽 次「楽しみにしています。」

谷 口「じゃあな。」

   電話を切る。柚月が居間にくる。

愛 理「なんだって?」

楽 次「雇ってもらえることになった。」

愛 理「やったね! おめでとう。今日はすき焼きにするね。」

楽 次「リベンジだ。」

柚月 「お父さん。やったね。」(2部完了)

 

〇楽次の家(昼)(3部)

    愛理が居間で通帳を見ている。残高が37万と書いてある。愛理は溜息をつく。傍においてある、リポビタ

    ンスーパーをあけて飲む。そして鞄をもって家を出る。

    

〇電車の中。(夜)

楽次はスーツ姿でスマホをいじっている。

    スマホのLINE着信があったのを気づく。楽次は読む。そこには、柚月のメッセージが書いてある。「お父さん、大変。お母さん倒れた。順天堂病院にいる」と書いてある。

楽 次「大変だ!」

    

 〇順天堂病院の病室(夜)

楽次は愛理のいる病室に駆け込む。柚月が傍にいる。

愛 理「大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。明日には退院できる。」

楽 次「そうか。取りあえずよかった。」

愛 理「私は大丈夫だから柚月連れて帰って。」

   

 〇タクシーの中(夜)

    柚月は学生服姿で鞄を持っている。楽次はスマホ

    の時計見る。時刻は8時20分を指している。

楽 次「俺のせいだ。くそう。」

柚 月「お父さん。今の仕事は楽しい?」

楽 次「最低限の生活をキープしているだけで、なんとかしたい。愛理や柚月にも迷惑かけてる。」

柚 月「お父さんは、昔から、平松さんの旅好きだったね。

    なんであの曲好きなの?」

 楽 次「あの曲は、挫折から立ち直る時に勇気をくれた曲だ。

    今の僕は、僕の人生は家族とこの曲に支えられている。」

 柚 月「いっそのこと、この曲のボカロ広めたら? 本気で」

 楽 次「無理だよ。」

柚 月「私、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックやってるから拡散する。」

楽 次「そんなもんじゃ、火つかないだろう? それに本物じゃ

    ない、平松ボカロだぞ。」

柚 月「グーグルアドワーズ使えば?自分の動

  画、お金払ってみてもらうの。それをや

  ればお父さんの念から必ず話題なる。」

楽 次「詳しいな。さすが、そっちの学校いき

    たいだけはあるな。だけど莫大なお金かかるんじゃないか?」

柚 月「インストリームなら1ビュー、2円からかけられるよ。」

楽 次「なんだ?インストリームとは。」

柚 月「本来、人が見たい動画に無理やり、そ

  の前にCM入れる広告よ。」

楽 次「それはすごいな。」

柚 月「ここでポイントだけど、視聴回数って結構大事。

     10万びゅーなんかじゃダメ。」

楽 次「それじゃダメじゃん。」

柚 月「500万viewにさせるよ。そうすれば火付く」

 楽 次「いったいいくらになるんだよ。単純に250

    万円必要じゃないか」

 柚 月「世界にかければいいのよ。単価安い国は1円

     でもたくさんかかるわ」

楽 次「いい案だ。どのくらいの予算必要だ?」

柚 月「20万円。500万人に魅せれば火つく。」

楽 次「いちかばちか。あとはどこで稼ぐか。」

柚 月「駐輪場とかいいんじゃない?私、通学でよく駐輪場見かけるけど、おじさんとか多いし。土日、そこで働けば、二カ月もあれば、すぐじゃない?」

楽次「柚月頭いい。感謝する。やってみる。」

 

〇駐輪場(朝)

   楽次は人の自転車に当日札を自転車にけてホチキスで留める。

楽次「いってらっしゃいませ。」

〇楽次の家(夜)

    楽次はスマホで自分のPR動画を見る。

楽 次「よし、500万ビュー超えたぞ」

柚 月「やったね。まだまだいくよ。」

愛 理「楽しいわね。なんか希望湧くわ」

    楽次が何気にヤフートップを閲覧する。

    楽次の動画が話題にのっているのに気づく。

 楽 次「やったね。お金なしでもこれから伸びるよ」

    楽次のスマートフォンが鳴る。

 マ ネ「恐れ要ります。音光楽次さんの携帯で間違いないでしょ

     か?」

 楽 次「はい、そうですが」

マ ネ「こちら平松愛理事務局マネージャの土井と申します。た   

    だいま、あなた様の作られた。平松の使用曲のボカロ

    というのですか? それがヤフーで話題にのりまして、

    この曲のボカロ作った人と平松愛理のドキュメンタリー

    の取材依頼がきていまして、おうけいただけますか?」

 楽 次「はい。喜んで。」

 マ ネ「それから今更で恐縮ですが、平松をマネージャする

     会社に所属してもらうことは可能ですか? 多分、

     今回の旅で、ヒットになり仕事が増えるので、所属

     していただきたいのですが」

 楽 次「ありがとうございます。ぜひともやらしていただき 

    ます。」

 マ ネ「それでは、明日、日曜の10時に表参道、A4出口で

    お待ちしておりますので」

 楽 次「了解いたしました」

    楽次は電話を切る。

 愛 理「なんだって?」

 楽 次「平松愛理事務局からスカウト受けた」

 柚 月「やったね。お父さん。」

    

〇楽次の家 エンディング(昼)

    家族は引っ越しの準備をしている。

    部屋には柚月の所沢の映像関係高校

    の合格証書が見える。楽次の芸能プロダクションの契約書が見える。

楽 次「さあ、急ぐよ。もうすぐトラックきちゃうよ。柚月、これガムテープね。」

柚 月「所沢はどんな生活かな。楽しみだね。」

愛 理「食べ物たくさんあるんじゃない?」

柚 月「それはここにもあると思うけど。」

愛 理「ふふふ。」(3部END )